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第7話
もしかして本当に受け入れてくれるのかと期待した矢先、穏やかそうに思えた啓太は笑顔のまま言った。
「どうして僕のこと好きだって思うの?」
「け、啓ちゃんは優しいから。ずっと憧れてたんだ」
「憧れと好きって気持ちは本当に同じかな?」
「は、始まりは憧れだけど……す、好きだよ」
「優しくないかもしれないよ」
「でも啓ちゃんは兄貴みたいに俺のこと決めつけることしない。いつだって俺の意見を聞いてくれる」
「それは颯季が亜季くんの兄で、僕は責任のない他人だからね」
「で、でも……」
啓太はその笑顔とは裏腹に何を言っても笑いながら冷たく返すだけで、そこにはまるで見えない壁があるみたいだった。
「それでも啓ちゃんが好きなんだ」
「それは理由になってないよ」
その度に心が折れてしまいそうになる。確かに何も知らないのかもしれない。
でも、信じて貰えないことが一番つらくて、両目に溜まっていた涙が堰を切って溢れ出た。
「お願いだから……俺の気持ち、嘘って言わないで」
せめてこの気持ちだけは信じて欲しいのに、涙はぽたぽたと床を濡らしていく。
すると啓太は俺の頬を撫でると、愉しそうに笑った。
「本当、泣いてる亜季くんは可愛いね」
その微笑みは今までに自分が知っている啓太の笑顔とはまるで違うもので、思わず息をのみ戦慄くと、今度はよく見知った顔で微笑んだ。
「ごめんね。本当の僕は優しくなんかないんだ。亜季くんが思い描いてる僕とは、きっとかけ離れてるよ」
そっと涙を指の腹で拭い、その指は肌を這い首筋を撫でる。
「今みたいに酷いことしたり、言ったりして、もっと亜季くんのこと泣かせちゃうかも。でも、亜季くんは人前で泣くの嫌いだもんね。そんなことする人はもっと嫌いだよね」
少し笑いながらどこか可笑しそうに言う啓太に恐怖心が芽生えた。でもそれと同時に今まで知らなかった内側に初めて触れられた気もした。
そんな俺に柔らかく笑った啓太は首を傾げながら問いかける。
「それでも僕が好き? 僕のこと知りたい?」
「そ、それは、兄貴も知ってるの?」
「颯季は知らないよ。誰も知らない」
誰も知らない。それは、ここで俺が知りたいと告げれば特別になれるような言葉に聞こえた。
「知りたい?」
ずっと特別になりたかった俺は無意識に答えていた。
「……しりたい。おしえて」
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