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第14話【終】
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目を覚ますと啓太の部屋にいた。
「亜季くん起きた?」
時計を見ると花市場に買い付けに行く時間になっていたので、慌てて起き上がろうとしたが、思ったように腰に力が入らないし身体中の関節も痛い。
「亜季くんは休んでて。昨日は僕も嬉しくて、つい無理させちゃったから」
縛ったところ痛い? なんて聞かれると恥ずかしくなって枕に顔を埋めると啓太は笑った。
いつもと変わらない優しい啓太は昨日とは別人のようだ。
戸惑いつつシーツに包まったまま、じいっと見ているとその視線に気付いた啓太がこっちを向いて、また優しそうな笑みを浮かべていた。
「どっちの啓ちゃんが本当の啓ちゃんなの?」
すると啓太は微笑みながらベッドに腰かけると、シーツ越しの頭にそっとキスをした。
「どっちも僕だよ。亜季くんには優しくもしたいし、酷いこともしたくなる」
「じゃあ、また酷いこともするの?」
おずおずと顔をあげると、啓太は目を細めた。
「うん。しちゃうだろうね。泣きながらいく亜季くん可愛かったし。亜季くんはよくなかった?」
正直、よくなければこんなに悩んだりしないのだが、あまりにも与えられた快感が大きすぎて自分では処理しきれなくなって、またシーツの中に潜り込んだ。
すると啓太は俺の頭を撫でるようにしてベッドから立ち上がる。
「今日は颯季が来るけど亜季くんは寝てていいからね」
啓太から兄の名前が出てきて、慌てて顔を出した。
「あ! 兄貴のことどうしよう」
でも、焦っている俺とは対照的に啓太は大丈夫だと言いながら笑う。
「それ最初から亜季くんの勘違いだから」
「勘違い?」
「うん。颯季ね、プロポーズするんだって。僕はその時の花束を作って欲しいって頼まれただけだから」
「プロポーズ? でも、愛してるって言ってたんだよ」
「柄にもなく緊張してたから、そんなに彼女のこと愛してるの? って聞いたんだ。亜季くんが聞いたのは多分、その返事」
そんなことだったのかと力が抜けたものの、最初から勘違いと気付いていたならどうして言ってくれなかったのかと問えば、啓太は当然のような顔をした。
「そんなの亜季くんを手に入れるチャンスだからに決まってるだろ?」
啓太は立ち上がり、優しく俺の頭を撫でる。
「今日は水替えいいからね。家にはもう連絡してあるから、僕が帰ってくるまでここにいて。それで、今夜も僕の為に泣いてね」
「え? 今夜も?」
それは今夜も一緒にいていいってことなのか。今夜も昨夜みたいなことをされてしまうのか。
その妖艶な微笑みに色々と想像して困ってしまった俺は、シーツに包まったまま出掛ける啓太を見送った。
めくるめいた初体験は予想外の連続で、想像していたものよりだいぶハードなものだった。
縛られたところは鈍い痛みが少し残っているし、身体のあちこちは軋んでいる。でもそれ以上に啓太から与えられたものが大きくて、思い出すだけで身体が熱くなってしまう。
こんなに瞼が腫れるまで泣いたのも初めてだった。
泣き顔が可愛いと嬉しげに涙を舐める啓太の腕に揺らされながら、今夜もまた泣かされてしまうのかもしれない。
「痛いのとか考えたこともなかったんだけどなぁ」
ひとりごち、ちょっと悔しい気もして無理やり口を尖らせてみるも、自然と口角が上がってしまう。
ドキドキして眠れそうにないが、啓太の匂いの残るシーツに包まり俺はもう一度目を閉じた。
終
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