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後日談「優しい花屋の甘い棘」第1話
次に目覚めたのは驚いたことに陽が傾きかけた頃だった。
「え、もうこんな時間⁉︎」
時計を確認して目を擦りながら起き上がると、今日が休みでよかったと心底思った。
起き上がると相変わらず身体は軋んでいたが、同時にぐぅっとお腹がなる。
そういえば、昨日の夜から何も食べていない。
「お腹減った……」
ベッドに座ると今度は腰がずきんと痛む。でも摩りながらゆっくり立ち上がればなんとか歩けそうだ。
そして、ゆっくりと階段を降りていくとその音に気付いたのか花屋側から啓太が顔を出した。
「亜季くん起きた? 身体大丈夫? 辛くない?」
啓太の顔を見るなり昨晩の出来事がまた思い出されて、思わず顔が熱くなってしまう。
「だ、大丈夫」
啓太はそんな俺に目を細め、頭をぽんと撫でるとキッチンの方へ向かった。
「お腹すいたでしょう? ちょっと待っててね」
しばらくすると、カフェオレとブラックコーヒーの入ったマグカップとサンドイッチを持って啓太が戻ってきた。
「ゆっくり食べて」
そう言いながら啓太は唇に軽く触れるだけのキスすると隣に座ってコーヒーの入ったマグカップを自分の方へと引き寄せた。
まるで息をするかのような自然なキスに思わず呆然としてしまう。恋人になるとこんなにも甘い雰囲気になるのかって、頭と心が付いてこない。
「どうかした?」
「あ、いや、えっと。お店はいいのかな? って」
「僕も休憩しようと思って」
「そっか」
なんとなく気恥ずかしくて俯きながらサンドイッチを食べていると、視線を感じて顔を上げたら啓太と目が合った。
「なんで見てるの?」
「亜季くんが可愛いから」
「俺は可愛くないし」
クスクスと笑うと啓太はコーヒーを一口飲んでそっと俺の頬を撫でた。
「今日はもう早めにお店閉めちゃおうかなぁ」
「え? なんで?」
「せっかく亜季くんと恋人同士になれたから仕事したくないんだよね」
「な、何言ってんの?」
思いもしなかった答えが返ってきて思わず咽せそうになった。すると啓太は俺の近くに体を寄り掛からせるように座ると柔らかく微笑んだ。
「こんな日は、仕事なんかせずにずっと亜季くんと一緒にいたいよ。でもそんなわけにもいかないから残念」
「啓ちゃんでもそんなこと思うんだ……」
不思議そうに見つめると、目を細める。
「思うに決まってるでしょう? 今日はなるべく早く終わらせるから晩御飯は亜季くんの好きなもの出前でも取ろう。何がいい?」
「じゃあ、ピザ!」
啓太は柔らかく笑うとまたゆっくりと顔を近づけてキスをする。
唇全体を包み込まれるように優しいキスはくすぐったく感じたが次第に重なる唇はぴったりと吸いつく動きに変わった。
上唇を軽く噛んだあと吸われ、思わず身をよじると、はずみで口が開き、その隙間から滑り込まれた啓太の舌に捕まる。
「ふっ……」
身体を引き寄せられて唇の角度が変わるともっとぞくぞくした。
「亜季くん、気持ちいい?」
キスの合間に囁かれて、ぼーっとしてきた思考のまま素直にこくこく頷くとまた啓太は目を細めた。
ほわんとしたまま啓太を見上げると、眼鏡越しに長いまつ毛がはっきりと見えた。そのままじっと見ていると啓太がふわりと笑う。
「……ほんと、かわいいね」
啓太の声はさっき飲んだミルク多めのカフェオレみたいでほんのり甘くて、でもなぜか切なくて息苦しくなる。
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