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第12話
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東京行きの最終の新幹線には、平日の夜だからか乗客が殆どいなかった。悠希の乗る車両も数人のビジネスマンが座っている。皆、リラックスした様子で缶ビールをかたむけたり、熟睡体勢に入っている人もいた。
悠希も同じように缶ビールを口にしながら、暗くて何も分からない車窓を眺めている。夜の帳よりも窓を叩いて流れていく雨のせいで、外はより暗く重く澱んでいるように見えた。
あのあと、細く降り始めた雨の中を日本庭園からそのまま火葬場の建物のエントランスへと抜けて、用意されたタクシーへと乗り込んだ。故人の息子の青年は一応見送りに来てくれて、最後にまた悠希に礼を言った。その時の言葉を思い出す。
「また、近いうちにお会いしましょう」
(一体、どんな意図があったのだろう)
あの夜、太田からの連絡がなければ、悠希は各務昭雄が死んだことも、今日の葬儀に参列することも、彼の息子の彰吾に再会することもなかった。心の奥底に厚い蓋をして閉じ込めたあの人が、再び扉を抉じ開けて出てくることもなかったはずだ。
(あの携帯電話を渡したいためだけに俺を捜したのか?)
悠希は喪服の上着のポケットから渡された携帯電話を取り出した。深い赤色の携帯電話。今どきガラケーなんて持つ人は少ないだろう。だが、悠希の知る各務昭雄は周囲がスマートフォンを使うなか、頑なにガラケーを使っていた。
(この携帯だって、随分前に俺と一緒に買いに行ったんだ……)
『俺は細かい設定は分からないからさ、おまえが何とかしといてよ』
これは彰吾の声か? いや、これはあの人の台詞だ。あのとき、確か仮でパスワードを設定した。
『分かったよ、後で設定し直しておくからさ。だけど、俺はおまえに中を見られても何も疚しいことは無いんだがなあ』
二つに畳まれた携帯電話を広げて電源を入れた。しばらくすると立ち上がってパスワードの入力画面が表示される。携帯電話の電池残量は百パーセントで彰吾がいつ、この携帯を預かったのかは知らないが、こまめに充電をしていたのは分かった。
「あなたがそれをご存知なのだと判断しました」
大人びた物言いの彰吾の言葉を思い出す。初めて会ってから九年。彰吾は二十三になっていた。あのやけに落ち着いた物腰は、九年前に今の彰吾と同じ歳だった自分と比べるまでも無い。人とは九年という同じ年数を過ごしても、その間に何を経験したかによってああも違うのかと悠希はぼんやりと思った。
(俺が知っているとすると……)
悠希はあのときに仮に設定した四桁の数字を親指で押していく。何のことはない、悠希自身の誕生日の日付だ。予想通りに呆気なくロックは解除されて、やはり、仮パスワードをそのまま使用していたのかと悠希は少し呆れた。
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