ドンッ、と体に響く衝撃波が窓を揺らす。大きな音と共に目に捉えられない明るい光が窓の外を高速で横切った。列車がすれ違って、悠希は現実に引き戻された。下りの新幹線と離れて行くと視線の先には都会の灯りが見えてくる。車内に流れる電光掲示板はもうすぐ大阪に着くことをアナウンスしていた。 （まだ先は長いな） 　手の中の携帯電話はメール画面が開かれたままだ。その文章を閉じてピッピッと次のメールを開いていく。 （もう十年近く前になるのか） 　あの頃の自分にもし会うことが出来たなら、殴ってでも各務とは体の関係を続けるなと忠告しただろう。この頃の各務から悠希に送られたメールは、その殆どは業務的な内容が多かったが、たまに二人にしか分からない文面のものもあった。 『よくやったな。この調子で頑張って下さい』 　これは何かの案件で成果を挙げた時の言葉だ。件名に当時、悠希が関わっていた案件名が書かれている。次のメールは無題で、 『今夜九時に店で』 　これはベッドへの誘いの言葉。各務からのプライベートなメールは必ず無題だった。店とはあのハッテン場では無くて、各務が別に隠れ家のように通っていた繁華街の裏通りの目立たないバーのことだ。 　各務と秘密を共有するようになっても、しばらくはそんなに頻繁に体を重ねた訳では無かった。元々、各務は周囲に自分の性癖を隠すのには周到で、常連とは言ってもあのハッテン場にも足繁く通うことは無かったようだ。 　実際に悠希と会ったあの夜も、半年振りにあの店に行ったのだと後から聞いた。少しでもタイミングが違えば、悠希と各務はあそこで会うこともなかったのだ。 （この頃はひと月に一度くらいだったか……） 　別に二人で決めたわけでは無かったが、誘うのはいつも各務からだった。こうやってメールで呼び出されて待ち合わせの店に行く。そして、少しカクテルを飲んでから別々に店を出て、近くのホテルへと別れて入るのだ。 　ホテルはいつも各務が決めていて、バーでメモを渡されてから今夜の睦み合いの場所が分かるといった具合だった。 　高鳴る胸を抑えながらホテルに着いたと連絡をする。部屋には既に各務が居て、部屋の番号を伝えてくれた。それから周囲に気を払いながら部屋のドアの前に立って、チャイムを鳴らして……。 （今から思えば、まるでウリ専のようだ） 　悠希はあの頃の自分を思い出して苦笑した。大きく息をついて小さなテーブルの上の缶ビールを手にする。思いの外、中身は残っていなかったようで、温いビールを飲み干すと余計に喉の渇きが気になった。