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第36話

 小さいは余計だよ、と少年は各務に文句を言って、 「各務彰吾です。いつも父がお世話になっています。今日はよろしくお願いします」 と頭を下げた。 「藤岡です。こちらこそ、いつもお父さんにはお世話になっているよ。旅行、楽しんでね」  悠希の応えに彰吾は照れくさそうに頭を掻いた。 「それでは皆さん、集まってください」  太田の張り上げた声がロビーに響く。その声にぞろぞろと散らばっていた人々が集まってきた。  今日は二泊三日の社員旅行だ。行き先は冬の北海道。札幌の大通公園で開催されている雪まつりを中心に、行動展示で有名な旭山動物園や小樽と言った観光地を巡る。  この社員旅行は毎年開催されている訳では無い。昔の景気の良かった頃はそれこそ毎年のように海外にも行ったらしいが、近年は二、三年に一度の頻度になっている。  今回は前年度の業績も良く、その勢いを今年上半期にも引き継いだおかげで、お偉い方の機嫌も良かったらしい。給与から強制的に天引きされる個人積み立ても含めて、オンシーズンの北海道へ行こうというのだから、かなりの太っ腹だ。  さらに、今回の旅行では希望があれば家族の同伴も許されており、彰吾の他にも幾人かの社員の子供や配偶者が参加していた。  そして昔からなのか、この社員旅行は毎回、入社二年目の社員が中心となって幹事を受け持つことが慣例になっていた。 「……以上が注意事項です。また現地で詳しい案内をさせていただきます」  主幹事の太田の緊張した声に女性達からクスクスと含み笑いが聞こえた。  悠希の担当はホテルの予約と各人の部屋割りといった宿泊全般だ。個人参加者は二、三人ごとに一部屋を割り当てて、家族連れはそのまま一つの部屋を使ってもらう。  結構、あいつはイビキがうるさくて嫌だとか、夜の街に繰り出すメンバーで固めてくれ、など、裏の圧力が多くて大変だった。それに、 (課長と同じ部屋になれなかったな)  実は各務は当初、個人での参加だった。その時点の部屋割りの案では、悠希は各務と同室にしていた。これは幹事の特権だ。皆とは別のフロアの離れた部屋で、二人だけの夜を二夜も満喫出来るのだ。多少の他の社員の我がままも聞いてやろうかと寛容になれた。  ところが参加希望締め切りのぎりぎりになって各務が、 「すまないが急に一人、参加が増えても大丈夫か?」  詳しく聞くと各務の幼い娘がその時期に入院して手術の予定があるという。 「なに、大したことはない病気なんだ。だけど妻は看病に付きっきりになるし、長男一人を家に残して置けなくてな」  それならば仕方が無い。件の部屋は各務と息子にゆずって、悠希は太田達同期の幹事連中と三人部屋に落ち着くことにした。

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