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第37話

(課長の息子は中学二年生とは聞いていたけれど……)  中学生時代の自分と比べても、彰吾は幼い感じがする。だが、受け答えははっきりしているし、いっぱしに父親を疎ましがるところなどは思春期真っ只中なのだろうな、と悠希は思った。 「では、これから搭乗となります。忘れ物の無いように」  飛行機への搭乗ゲートへ皆が並んで歩き出す。悠希もその中に紛れて、たまたま隣を歩く部長と話をしていた時だった。 「藤岡さん」  後ろから名前を呼ばれて、同じタイミングで隣の部長と振り返った。 「あ、……えっと」  そこには戸惑った表情の彰吾が付いてきていた。ははぁ、と隣の部長が笑って、 「きみは各務課長の息子さんか。実は、私の名前も藤岡なんだよ。用事があるのは若い方の藤岡くんにだね?」 と、言うと先に飛行機の中へと消えていった。 「同じ名前だから紛らわしいよね」  悠希は緊張した面持ちの少年と並んで足を進める。 「俺のことは下の名前で呼んでくれていいよ」 「下の名前って、えっと、ユウキさん?」  彰吾は先ほど、ロビーで参加者に配られた旅の行程表に記されていた参加者名簿を見て言った。 「ハルキって読むんだ。じゃあ、俺もきみのことを、彰吾くんって呼ぶね」  彰吾が少し顔を赤らめて、ハルキさん、と呟く。 「彰吾くん、なにか用事があったのかな?」  顔を赤くしたまま、彰吾はちらりと自分の後ろに視線を向けて、 「あの、飛行機とか北海道に着いてからのバスの中って座るところが決まってたりするんですか?」 「座るところ? ああ、座席か。飛行機は決まっているけれど、バスは自由だよ」 「決まってるんですか、飛行機の席」 「バスもお父さんと隣のほうがいいんじゃないかな」 「……それがイヤなんです、俺」  後ろで他の社員と談笑しながら歩く各務を見て、彰吾は心底嫌そうな顔をした。 「どうして?」 「……だって、旅行中は携帯ゲームをやるなって言うし、煙草臭くて隣にいると乗り物酔いそうだし」 (課長の煙草の香りは結構好きだけれど)  中学生の男の子には臭いだけか、と悠希は思いながら、 「じゃあ、そうだな。俺がお父さんの隣に座るよ。彰吾くんは俺の席に座ったら?」  人数の関係で悠希は一人で座席を使うことになっていた。 「いいんですか?」 「うん、大丈夫だよ」 「やった! ありがとう、悠希さん」

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