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第38話

 機内に入って座席を探す。見つかると彰吾はさっさと悠希の座る予定だった座席に腰をかけた。 「彰吾、席が違うぞ」 「……代わってもらった。悠希さんに」  代わった? と聞き返す父親を無視して彰吾は窓の外を眺め始めた。 「まったく、近頃は全然言うことを聞かない」  ぶつぶつと言う各務の隣に座って、悠希は苦笑いをした。 「おまけに、いつの間に下の名前で呼ばれるようになったんだ?」  面白く無さそうに尚も呟く各務を、まあまあと悠希は宥めた。 「あの年頃はだいたいあんな感じですよ。彰吾くんはまだ課長の言うことを聞いているほうです。あの頃の俺なら絶対に父親の会社の旅行になんて来ませんよ」  あれでマシなのか、と不満そうな各務のいつもと違った一面が垣間見えて、悠希は新鮮に感じた。  飛行機が離陸して、雲よりも高い位置から日本列島の一部分が見下ろせるようになると、彰吾は頭を窓にめり込ませるように眼下の景色を眺めた。他の参加者達もそれぞれ空の旅を楽しんでいる。悠希も各務と話をしながら、自由時間にどこに行こうかと盛り上がっていた。 「ねえ、悠希さん、ちょっと来てよ」  シートベルトのサインが消えてしばらくすると、彰吾が通路の向こうの席から悠希を呼んだ。 「ほら、早く早くっ」  席を立とうと各務と眼が合うと、すまないな、と無言で伝えてきた。 「どうしたんだい」 「ほら、見て! あれ、もしかして富士山?」  彰吾が指さす窓の外を見ようと隣の空いている席に座って、彰吾の肩越しに小さな窓を覗き込む。 「どれ?」 「ほら、あそこ。一際ぴょこんと出てるの」 「あ、本当だね、富士山の山頂だ」  スゲエ! と驚いた彰吾の声に近くの席にいた人達も一斉に窓の外を見始めた。 「やっぱり高いんだなあ。目立ってるね」  興奮気味に言う彰吾が悠希に視線を向けた。その屈託のない笑顔に悠希も笑いかけると、途端に彰吾は顔を赤くして窓の外へと向き直った。 「富士山が見えるって?」  悠希の耳元で低い声が響く。いつの間にか席を立った各務が、後ろから悠希の肩に手を添えて、背中を覆うように窓へと顔を突き出してきた。 「父さん、邪魔だよ。こんなに狭いのに悠希さんが迷惑しているじゃんか」  ちっ、と舌打ちまで聞こえてきそうな彰吾の文句に、悠希はおかしくてくすりと笑った。 「いいじゃないか。父さんだって富士山が見たいんだよ」 「そんなの、出張で飛行機に乗ったときにでも見ればいいじゃん。早く自分の席に戻れよ」  いらいらと小さく声を荒らげる彰吾に、やれやれと苦笑した各務は大人しく自分の席に戻って行った。

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