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第39話
「なんでもかんでも直ぐに首を突っ込んできてウザいんだよ」
ぼそりと呟いた彰吾の態度にますます悠希は笑いが込み上げてきた。
(思い切り反抗期中だな)
それでも、やはり彰吾はましなほうだろう。自分はあの頃、親と会話をするなんて死んでも嫌だと思っていたな、と彰吾の横顔を眺めて思い出した。
懸命に雲の下を見る彰吾の横顔には、あまり各務の面影が無い。それでも笑った目元やふとした口調などは、各務の雰囲気を感じさせた。
「飛行機って速いんだね。もう富士山が見えなくなったよ」
ようやく彰吾は窓に張りつけていた顔を剥がして、座席に座り直した。
「飛行機は初めて?」
彰吾は素直に頷く。耳が痛いと言いながらも初めての経験に浮かれているようだ。
「さっき、お父さんと自由時間にどこに行こうかと話をしていたんだ。彰吾くんは行きたいところがある?」
彰吾は悠希の後ろにいるであろう父親を睨み付けるように窺うと、
「……行きたいところはあるけど、父さんとは行きたくない」
(父親が疎ましくて仕方が無いんだな)
「折角のチャンスなんだから行っといたほうがいいよ。そうだな、一人は危ないから俺も一緒に行こうか?」
えっ、と驚いたように彰吾が悠希を見る。
「今日は幹事の仕事で難しいけれど、明日なら自由時間が取れるから」
彰吾がはにかんだ笑顔を浮かべて、
「あのさ、夜にライトアップされた雪の像が見たいんだ」
聞けば好きなアニメのキャラクターの雪像が、雪祭りの会場にあるのだと言う。
「うん、分かった。明日の夕食の後に見に行こう。お父さんには他の人とお酒でも飲んでてもらうよ」
ぱっと彰吾の顔が明るくなった。ありがと、と短く悠希に礼を言うと、がさがさと鞄から北海道の旅行雑誌を出して、パラパラとページを捲り始めた。
(結構、楽しみにしていたんじゃないか)
悠希はこの少年が可愛く思えてきた。
「他にも気になるところがあるの?」
悠希の言葉に彰吾は目を輝かせて、拡げたページを差し出した。
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