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第43話
行くぞ、と開いたエレベーターの前で各務が彰吾を呼んだ。途端に彰吾は面白く無い表情をした。
(分かりやすいなあ)
悠希は彰吾に、「ほら、お父さんが待っているよ。あとで宴会場でね」と、不満そうな彰吾の背中を押しだした。
宴会も終わると就寝まではそれぞれ皆、自由に過ごす。彰吾も昼間に約束した通り、女性陣や他の社員達と夜の街へと行ったようだ。
悠希を含めた旅行の幹事達は、自由時間を明日以降の旅行の準備に使った。それでも食いしん坊の主幹事の太田などは、打ち合わせが終わると他のメンバーを追い掛けてラーメンの食べ歩きへと出掛けて行った。
悠希も誘われたが流石に夜の十時も近い時間に炭水化物を腹に入れる気にはなれず、ひとり部屋に残った。
(そうだ、温泉にでも行くかな)
このホテルの隣には立派な温泉施設が併設されている。二十四時間営業の温泉施設でホテルの宿泊客も利用でき、一階のロビーから専用通路で繋がっていた。
悠希はホテル備え付けの浴衣と羽織りを手に取ると、替えの下着などを準備して部屋の外へ出ようと扉を開けた。
「わっ」
悠希が開けた扉の向こうで驚くような声がした。見るとそこには体を後ろに逸らした彰吾の姿があった。
「あー、びっくりした。ドアを叩こうと思ったらいきなり開くんだもの」
「彰吾くん。ラーメンの食べ歩きから帰ってきたの?」
「うん。美味しかったあ。だけど、皆と別れて部屋に戻ったら鍵が掛かっていて入れなかったんだ」
ああ、と悠希は宴会後の各務の姿を思い出して、
「お父さんはまだ、偉い人達と飲みに行って帰っていないんだよ。留守の時は部屋の鍵をどうするとか話をしなかった?」
そんなの知らないし、と不貞腐れたように彰吾が呟く。多分、各務は部屋を留守にしたときのルールを彰吾に伝えているはずだが、端から父親の言うことなど耳にも入れなかったのだろう。
「きっとフロントに鍵を預けて出かけていると思うよ。俺もこれから部屋を空けるところだったから、一緒にフロントに行こうか」
彰吾が部屋を出てきた悠希の荷物を不思議そうに見つめると、
「どこかに行くの?」
「これから温泉に行こうと思っていたんだ。一緒に行く?」
うん、行く、と返事をした少年は、なぜか少し恥ずかしそうな素振りをした。
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