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第45話
「あ、まだ雪が降っているんだ。北海道って冬の間、ずーっと雪が降るのかな?」
「そんなことは無いよ。明日の天気予報は雪も上がって晴れるみたいだよ」
やった、と彰吾が喜んだ。
「明日はホッキョクグマの水中ダイブを見るんだ」
明日は朝から旭山動物園に向かう。彰吾の喜びように悠希も笑みが溢れてきた。先ほどまでの恥ずかしそうな態度は鳴りを潜めたのか、彰吾はしっかりと悠希の顔を見ると、
「悠希さんって、細マッチョだね」
「そうかな?」
「うん、良いなあ、羨ましい。俺はチビだし、ひょろっとしていてイヤなんだよね」
彰吾が細い左腕を湯から上げて右手で擦った。
「俺さあ、必ず列の先頭なんだ。同じクラスにはもう、悠希さんくらいの背のヤツもいるのに」
(体が小さいことがコンプレックスなのか)
「大丈夫だよ。俺だって伸び始めたのは高校に入ってからだったよ。それに、きみのお父さんは背も高くて体つきも良いから、きっと彰吾くんもそうなるよ」
各務のことを引き合いに出すと、彰吾は眉間に皺を寄せて、
「悠希さん、父さんの裸、見たことあるの?」
つい思ったことを口にして、まさかそこを突っ込まれるとは思いもしなかった悠希は、「……前に出張先で一緒にサウナに行ったんだ。その時に見たんだよ」と、苦し紛れの嘘をついた。サウナっておっさんくせえ、と彰吾は言うと、
「あ、明日の天気だけど晴れないよ、きっと」
「どうして?」
「だって父さんがいるから。父さん、凄い雨男なんだ。反対に俺は晴れ男なの」
「晴れ男?」
「そう。父さんが学校の行事とかに来るとさ、絶対に雨に降られたんだ。それが嫌で嫌で、晴れろーって死ぬほど念じたら、俺が出かける時は晴れるようになったんだ。だけど、父さんと一緒だと半々くらいなの。近頃は曇りになっちゃう」
面白いことを言うな、と思って悠希は笑った。その悠希の笑顔に気を良くしたのか、「ねえねえ、悠希さんって彼女とかいるの?」と、彰吾が興味深げに聞いてきた。
「……付き合っている人はいないなあ」
えーっ、と彰吾は驚いて、
「悠希さん、かっこいいし凄く優しいのになあ。絶対にモテると思うんだけれど。今は好きな人はいないの?」
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