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第47話
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翌朝は彰吾の宣言通り、どんよりとした厚い雲が空を覆っていた。
「天気予報では快晴のはずなのになあ」
主幹事の太田のぼやきを耳にして、悠希と彰吾は顔を見合わせて笑った。
「各務くんがいるんだ。雨にならなかっただけでも良しとしないと」
各務の雨男振りを良く知る部長の一言で、バスの中が笑いに包まれる。
ホテルから旭山動物園までバスは高速道路をひた走る。今日も悠希の隣には彰吾が座り、通路を挟んだ向こうの席の窓側に各務が眠そうに座っていた。
どこを見ても真っ白な平原をバスは進んでいく。彰吾は昨日と同じように窓に張り付いて外の景色を眺めていた。
カシャ――。
バスの揺れに、かくんと落ちた頭と、小さなシャッター音で悠希は眼が覚めた。欠伸を右手で押さえて隣を見ると、彰吾が笑いながら小さなデジタルカメラのレンズをこちらに向けていた。
「悠希さんって寝顔もかっこいいね」
先ほど撮られた画像を見せられる。そこには目を閉じてうたた寝をする悠希の姿が写っていた。
「まつげも長いんだ」
自分の寝顔なんてそうそう見ることはない。寝惚けた瞼を擦りながら、もう一度欠伸を噛み殺した。
「なんだか眠そう。昨夜は眠れなかったの?」
少し心配そうに訊ねた彰吾に、
「同じ部屋にライオンとゾウがいたんだ」
ちょっと首を傾げた彰吾が、ああ、とその揶揄に気が付いた。
「そのライオンとゾウなら、またイビキをかいて後ろで寝ているよ」
彰吾がデジタルカメラのムービーを再生した。そこには二つ後ろの席に座る悠希と同室の太田と山本が、二人揃って口を開けて寝ている姿が流れていた。
「ここまでイビキが聴こえたよ。あれじゃあ、昨夜は寝れなかったよね」
デジタルカメラを操作しながら彰吾が、
「悠希さん、今夜は俺の部屋で寝たら? 俺の泊まっている部屋、凄く広いんだ。父さんと二人じゃもったいないし」
聞くと彰吾達の部屋はどうやら家族向けだったようで、二つのシングルベッドの洋室と続きで六畳の和室も付いていると言う。
「昨夜は父さんには和室に寝てもらったんだ。だって、寝る直前まで煙草を吸うから臭くてたまんないよ」
楽しそうに悠希を誘う彰吾に気づかれないように通路の向こうの各務に視線を這わせて、「そうだね。ライオンとゾウがまだ吼えそうならお願いするよ」と、悠希は返事をした。
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