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第57話
「ほら、おまえだってもうこんなに期待している」
布越しでも分かる程に硬くなり始めた悠希の股間を、各務はゆっくりと撫でた。その感触に物足りなさを感じながらも悠希は息を詰める。
(俺だって課長の浴衣姿に興奮した)
本当なら昨夜も、そして今夜だってこうやって二人だけの時間を気兼ねなく過ごすつもりだった。だけど……。
各務が悠希の首筋に唇を這わす。時々、きつく肌を吸われて悠希の背筋に小さな電流が走った。それでも悠希は粗く漏れる吐息を我慢して、各務から逃れようと身を捩った。
「どうしたんだ。今夜はやけに嫌がるな」
(何を言っているんだ、この人は。なぜ、隣の部屋の存在が気にならないんだ)
「だって、彰吾くんがいるのに……」
悠希の言葉に各務が動きを止めた。しかし、直ぐに、ふふっと悠希の肌に軽く各務の息が掛かった。
(――いま、嘲笑した?)
「あいつは一度寝入ったら何があっても起きないんだ。今は薬も効いているから余計に起きては来ないよ」
そうは言われても悠希は気が気ではない。しかし各務はいつもと同じように、悠希を生まれたままの姿にしようとした。浴衣の袂をはだけられ、帯を解こうとする手を悠希は止めた。
「やっぱり今夜は……」
「気が乗らないか」
各務がため息混じりに悠希に聞く。その声が思いの外、冷たく響いて、悠希は弾かれたように各務を見た。暗がりの中の各務は、面白くなさそうな眼差しで悠希を見ている。その瞳に悠希は胸を貫かれた。
(俺は課長を失望させた……?)
途端に悠希の心が不安感でいっぱいになる。
(こんな表情、初めて見た……)
「そうか。すまないことをしたな」
各務が柔らかな表情に変わった。そして悠希の頬に手を添えると、軽いキスをして立ち上がろうとする。悠希はその各務の腕を強く掴んだ。
「藤岡?」
悠希の心に溜まっていった不安はもう溢れ出しそうになっていた。ここで各務を離してしまったら、もう二度と自分には触れてもらえなくなる……。
悠希は自分を見下ろす各務の顔を真剣に見上げた。少し驚いたようにこちらを見ている各務に、
「あ、あの、……」
悠希は恥ずかしそうに視線を逸らすと、戸惑い気味に頬を染めて、
「……あの、課長のを、く、……口でなら、やります……」
各務の表情がゆっくりと、驚きから満足気な微笑へと変化した。
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