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第62話※

「もっとゆっくりとおまえを堪能したいところだが……。それは次の機会にしよう」  言うなり各務は悠希の蕾の奥に強く熱塊を叩き込んだ。 「んんっ!! くっ、……あっ!」  大きく揺さぶられる体が、これ以上動かないように掛布団を抱き締めた。帯で塞がれた瞼をさらにきつく閉じると、何も見えないはずの視界に白く光が差していく。それはチカチカと弾けながら、悠希の頭の中に拡がっていった。  各務の唇が悠希の滑らかな背中に紅く花弁を散らす。時折、噛まれたような痛みも感じたが、それすらも甘い疼きに変化していった。 「藤岡……!」  各務に名前を呼ばれた気がする。同時にまた膨らみを増して甘い蜜を滴らせている花茎を強く握られた。 「……ッ! ぅ、はぅ」  叫びを呑み込む代わりに強く下腹に力を込めて、悠希はまた白濁を布団の上に散らしてしまった。痺れる花茎を握られたまま、各務が息を詰めて何度か大きく腰を震わせると、悠希の蕾の奥に暖かなものがじわりと注ぎ込まれた。 「……あっ」  ぼんやりと霞む意識の中で体内に注がれた温もりが、いつも悠希と各務を遮っている薄い膜が存在しないことを気づかせてくれる。 (初めて、そのままを受け入れた……)  悠希の中に言いようの無い感情が溢れてくる。それは苦しいほどに胸を締め付けた。  ぐったりと弛緩している悠希の顔から、視界を覆っていた布が外された。一糸纏わぬ姿で気怠く仰向けに寝転ぶと、潤んだ瞳の先に心配そうな各務の顔が暗がりに浮かんでいた。 「すまない。直前で抜こうとしたんだが」  きっと悠希の中で射精したことを謝っているのだろう。悠希はその各務の顔を不思議そうに眺めた。別に女ではないのだから、中に出されたところで新しい命が宿る訳でもない。  ……なぜ課長は俺に謝るのだろう。こんなに熱くて暖かくて……、とてもしあわせなのに。  悠希は力の入らない両手を各務に向けて拡げた。すると、各務も腕を拡げて悠希の上に体を倒してきた。各務の首に腕を廻すと、各務は優しく悠希を抱き締めてくれた。  とくんとくんと各務の心臓の音が聴こえる。その満ち足りた音が悠希を眠りに誘う。  ……このまま二人で朝までまどろんでいたい。だけど……。 「……もうベッドに戻ってください」  まるで色気の無い悠希の言葉に各務がふっと笑った。 「すまないな、布団を汚してしまったよ。替えの布団を敷いていこうか?」  各務の台詞に、今度は悠希が各務の耳元でふふっと笑った。各務が少し顔を上げると悠希の瞳を覗き込んだ。まるでそれは悠希の心を読み取ろうとするかのように。  悠希は廻した腕に少し力を入れて各務の唇に顔を寄せた。ちゅ、と軽く触れると各務は緩やかな深いキスを与えてくれる。重なる顔の角度を代えて舌を絡め合い、溢れ出る互いを啜りあってやっと各務から唇を離した。  また至近距離で見つめられて、優しく髪を掻き分けられた額に口づけると、「おやすみ」と、各務は悠希から離れていった。  仰向けに横たわったままで、悠希は立ち上がって着衣を調える各務の姿を見上げる。先ほどまで汗にまみれて熱を交換し合ったのに、今の各務はすっきりとした浴衣姿に変わっていた。悠希を残して障子に手をかけた各務の後ろ姿に悠希は思わず、 「課長……、好きです……」  すらりと障子を開けて各務が出ていく。だが一瞬だけ、各務の背中が小さく揺れたのを認めて、自分の紡いだ告白は各務の鼓膜の奥へと届いているのだと悠希はゆっくりと瞳を閉じた。

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