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第91話

 悠希の視界を遮っていた大きな手が外される。明るさを取り戻した目を慣らそうと眉間に皺を寄せると、肩越しに彰吾の顔が表れた。頬が触れそうなほどの近さを横目で見ていた悠希に、彰吾は前方を指さした。 「こうやってあの夜も……、あなたは父に後ろから抱き締められていた。そして、父の手で高められて淫らに気をやりましたね。あのときのあなたはこの世の者とは思えないほど……、美しかった」  彰吾が何を言っているのか判らずに戸惑っていると、ほら、と指し示した場所を見るように促された。真っ直ぐに伸びた逞しい腕から長い指先へと視線を進めると、その先には壁にかけられた大きな姿見の鏡――。  鏡に写っているのはシャツのボタンを全て外され、二の腕までずらされて上半身を晒している自分と、その後ろから抱き締めるように寄り添う彰吾の姿。  前を指していた手を引き寄せて彰吾が悠希の胸をまさぐると、途端に自分の肌が仄かに紅く染まっていくさまが写し出された。  やめろと抗いたいのに、鏡の中の彰吾と目が合って悠希は言葉を失った。今、自分をかき抱いている相手。それが誰だか悠希には分からなくなってしまった。  胸の突起の上をさらさらと触れる手のひらが、彰吾のものなのか、それとも……、各務のものなのか。  胸を這う手が悠希の肩を抱いた。そして反対の手が悠希の脇腹から下腹へと這わされてくる。その手は弛んだスラックスを割って入り、悠希の花茎を覆う下着と皮膚の間に滑り込むと柔らかな下生えを玩び始めた。  時々、彰吾の指先が勃ち上がりかけた花茎に触れて、悠希は焦らされてしまう。これ以上、何もしないで欲しいという思いと、さらなる刺激を期待している体の狭間で、悠希は小さく吐息をついた。 「焦れったい?」  耳に吹きかけられる言葉が甘く香る。 「……今、あなたをこうしているのは、一体誰なんですか?」  はっと悠希は閉じかけた瞼を開けた。鏡に写る二人の淫らな姿。一人は自分でもう一人は……、誰だ? 「あっ!」  繁みを撫でていた手のひらに悠希の花茎がきつく握られる。それだけでじわりと頭一杯に射精感が溢れてくる。思わず顔を上げて鏡から視線を逸らした悠希の顎に、彰吾が強く手を添えて無理矢理前へと向かせた。 「ほら、見てください。まるであの夜と同じだ。あなたは目隠しをされたままで声を殺して父からの愛撫に耐えて……、俺はそれをあの鏡の向こうで見ていた」  驚いて大きく見開いた視線の先に――。  各務に抱かれて淫らに喘ぐ悠希を見つめる、哀しそうな少年の姿が現れた気がした。

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