94 / 131

第94話

 そしてその悠希の後ろから、誰かが彼を抱き締めるように前へと手を伸ばしている。その姿がはっきり見えなくて、さらに彰吾は目を凝らした。すると、 「急にやる気になったのか? こんなに濡らすなんて本当は誰かに乱れた姿を見られたかったのかな?」  初めて聴く父親の興奮した声。 (あれは、父さん!?)  それを認めると急に暗い部屋の様子がはっきりと彰吾には感じられるようになった。  くちゅくちゅという湿った音。粗く紡がれる悠希の吐息。薄灯りに照らされた白い肌を這い回る逞しい腕。後ろから前に廻された父親の手は、明らかに悠希の股間の一点を責めたてて……。 「あっ、ぁぁ!」  下唇を噛んで苦悶の表情を晒していた悠希が口を開く。その喘ぎに彰吾は体が跳ねそうになった。それでも障子の隙間に顔をつけていると、父親が視界を塞がれた悠希の顔を後ろへ向けて、その唇に噛みついた。  思いがけない父親の行動に彰吾は、あっ、と声をあげそうになる。それを慌てて口から飛び出しそうな心臓と一緒に飲み込んだ。  激しく悠希の口を蝕み続ける父親に合わせるように悠希の喉が小さく上下するのが分かる。彰吾にはまだ経験は無いけれど、 (父さんと悠希さんが……、キス、してる?)  ぶわっ、と頬が火照ってくる。 (どうして二人が? それにキスって本当は、男と女でするものじゃ……)  二人の口許と忙しなく動く父親の腕の先から、異質な二つの粘着音が彰吾の耳に絡みつく。やがてぶるぶると悠希の上半身が細かく震えだして、 「……んんーっ!」  父親に塞がれた悠希の唇からくぐもった声が発せられた。悠希が何度が薄い腹筋を凹ませると、やっと父親が悠希の唇を離した。そして、脱力して寄り掛かる悠希の耳元で何かを囁いた。  着ていた浴衣を剥ぎ取られて全裸にされた悠希が、こちらに向けてうつ伏せに倒れ込む。近くなったその顔に、彰吾は思わず頭を障子から離した。 (なんだよっ、これ……)  いま見た光景を理解したいのに頭が動かない。  だけど、これは見ちゃいけないものだ。それは分かる。分かる、けれど……。 (もし、父さんに悠希さんがいじめられているのなら、助けないと……) 「っん! は、……んぅっ」  さらに苦しそうな悠希の声が彰吾に届いた。その声に今にも心臓が爆発しそうになる。すっかり乾いたスウェットの胸を強く抑えて、彰吾は気づかれないようにほんの少しだけ、障子の隙間を拡げた。  先ほどよりも広くなった視野の中に、目隠しをされたままの顔を布団に押しつけて苦しそうに呻く悠希がいた。  そしてその悠希の背中に被さる父親。よく見ると父親が着ている浴衣も脱ぎかけていて、悠希の上で上半身が前後に動いていた。

ともだちにシェアしよう!