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第96話※
(そうだ。悠希さんはとても綺麗だ。あんな風に女の人みたいに、父さんに抱かれているのに)
苦しそうなのに、その声は切なくて甘くて淫らに喘いでいる。それに汗で光る肌は艶々していて触るときっと、しっとりと手のひらに引っ付いて気持ちいいに違いない。
(悠希さんは美しい……。俺も、父さんと同じことを彼にしてみたい……)
父親の動きが激しさを増すのと同時に、彰吾も自分の屹立を強く摺りあげる。悠希の洩らす喘ぎと一緒に、ハアハアと呼吸をする。
その感覚がだんだん狭まってきて、そして――。
「んんっ! ふうぅっ!」
強く布団を握り締めていた悠希の体が大きく震えた。その白い肌に噛みついていた父親も眉間に皺を寄せて、くうっ、と唸る。
「うぅ! あっ……」
キュウキュウと芯に力が入った。先端から熱が籠った体液が勢い良く噴き出して、彰吾は慌ててそれを抑えようと両手で自分の芯を包んだ。
でもそれは、自分の意思と反して長く放出されると、指の間から溢れ出て下着を濡らした。
「……何なんだよ、これ……」
初めての快感に頭がぽおっとする。しばらく射精の余韻に浸っていると、それも徐々に引いて濡れた股間の不快感にどうしようと考えた。トイレに行こうかと考えあぐねているうちに、障子の向こうで人が動いた気配がした。
ハッと思わず体を固くする。そして障子の隙間を見た瞬間――。
ドキンッ!
彰吾は今までにこんなに驚いたことは無い。いや、これからもきっと無いだろう。
隙間の向こうの空間には、ぐったりと脱力した悠希が気怠げに仰向けになっていた。その悠希の上には父親が覆い被さるように手をついて……。
「ッ!」
各務は燃えるような、だが冷たい視線できつく彰吾を見つめていた。
(ばれたっ!?)
一気に背筋が冷たくなる。障子を閉めるのも忘れて、彰吾は素早くベッドへと潜り込んだ。
股間はベタベタと気持ち悪かったけれど、それよりも父親のセックスを盗み見していたことを咎められるのが恐ろしくて、布団を頭から被った。
カチカチと震えて歯の根も合わない。いつ、父親が怒りの形相でこの布団を引き剥がすかと、彰吾は気が気では無かった。しかし予想に反して、いつまで経っても父親がこちらに向かってくる気配がない。
彰吾は、布団の中に充満してきた自分の精液の生臭い匂いに我慢が出来なくなって、そっと布団から顔を出した。耳を澄まして神経を和室に集中すると、微かに二人が何か会話を交わしているのが聞こえてきた。
しばらくすると障子が大きく開かれる音がして、和室の入口に乱れていた浴衣をきちんと着直した父親が立っているのが分かった。そして父親が障子を締めようとした瞬間、
「課長……、好きです……」
ぱたん、と障子の閉まる音がした。でも、父親はそこから動く気配がない。彰吾は薄暗がりの中で布団から目だけを出して父親を見つめる。
(好きって……。悠希さんが、父さんのことを……)
障子を背にして、フットライトに照らされた父親の初めて見る表情に、彰吾は胸が灼けるような締め付けを感じていた。
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