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第99話

 鏡に写る彰吾も悠希を真っ直ぐに見つめていた。その表情はもう各務とは重ならない。あの短い数日の間に、人懐こく悠希に笑い掛けていた少年が今、切なげに悠希を見つめていた。 「俺はあの人に愛してもらえたよ、彰吾くん。たとえ言葉にしなくても、最期の刻まであの人は俺を愛してくれた……」  すう、と涙が頬を伝っていく。鏡の中の自分が泣いている。  それを認めた彰吾が一瞬、大きく目を見開くと直ぐに眉間に皺を寄せて、悠希を後ろから優しく抱き締めた。 「……それでも、親父は臆病者で卑怯だ」  悠希の頬を流れる涙を拭いながら彰吾は低く呟く。 「だって一度もあなたの名前を呼ばなかった。あなたにも自分の名前を呼ばせなかった。親父は怖かったんだ。自分が男を愛していて、それが周囲にばれることが。どんなに些細な綻びでも、自分が今まで築いていたものを壊してしまうことが恐ろしくて、あなたの名前も呼べなかったんだよ……」 「彰吾くん……」 「なのに、あなたに執着した。親父の話を聞かなくたってあのメールを見ればわかるよ。でも、だからって俺にあなたを愛せなんて傲慢すぎる。だって親父に言われなくても……。俺は悠希さん、あなたを愛しているんだから」  抱き締められた腕に力が篭る。悠希は濡れた睫毛で何度か瞬きをした。 (――今、彰吾は何と言った? 俺を愛しているって?) 「親父は取り残されるあなたのことをとても心配していた。俺があなたのことを報告すると余計にね。悠希さんが他人を避けるようになって、孤独に過ごすようになったのは自分のせいだって悔やんでいたよ。だから俺は何度も悠希さんを病院に連れてくるって言ったんだ。だけど親父は頑としてそれを俺に願わなかった。確かにあの頃の親父は、とてもじゃないけれど昔と見る影もなかったから、あなたにそんな姿を晒したくはなかったんだろう。でもそれよりも、親父はあなたと俺が接触することを異様に恐れて、嫉妬をしていたんだ」 「嫉妬?」 「俺は、あの夜からあなたに恋焦がれていた。あのとき、親父は俺が覗いていたことを分かっていた。そして分かっていたから、あなたを俺の目の前で抱いたんだよ。こいつは俺のものだ、と見せつけるために」  悠希は戸惑ってしまう。彰吾が自分のことを愛していて、それに各務が嫉妬していた?

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