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第100話

「きっと俺の中のあなたへの仄かな恋心を親父は嗅ぎつけたんだろう。たかだか十四のガキに、親父はあからさまに嫉妬心を顕わにして俺を牽制してきたよ。それでも俺はいつかあなたに会いたかった。早くあなたと釣り合う男になって、あなたに再会したかった。だから、親父が死んで直ぐに、あのメールを俺からのメッセージとして携帯の中に残したんだ」  彰吾が悠希からゆっくりを腕を離した。そして後ろ手に縛っていたネクタイを外すと悠希を解放した。悠希は自由になった腕をさすりながら後ろの彰吾へ振り返った。 「俺も親父と同じだ。女は愛せないように出来ているらしい。けれど親父と違うのは悠希さん、俺はあなたを愛することを恥じたり隠したりはしない」  ひゅっ、と小さく悠希の喉が鳴った。真っ直ぐに見つめてくる彰吾の瞳。その輝きには今、発した言葉に嘘も偽りもない、ありのままの心の光が宿っていた。  悠希と各務が出会ったころ、各務にはすでに守るべき柵があった。それは自分の社会での地位であり、家族であり。たとえそれが壊れかけで不安定なものであっても、各務にはそれらを捨てて悠希を選ぶことは出来なかった。  そして、悠希を想い、愛するが故に選んだ道も、結果的に自身が孤独に人生を終えるという結末になってしまった。  各務昭雄という男は、とても小心者で不器用で、そして愛すべき人だった……。  各務によく似た顔が悠希に近づいた。そして柔らかく唇を押し当てると小さく啄んで下唇を舐めた。そのキスはそのまま悠希の瞳からこぼれ落ちる透明な雫も吸い取っていった。 「愛しています。悠希さん」  優しい声が悠希の耳に滑り込んでくる。伸びてきた手でゆっくりと肩を引かれると、悠希の体は彰吾の逞しい胸の中へと倒れ込んでいった。 「愛しているって……。だって、きみとはあれ以来、会っていなかったのに……」  信じられないといった悠希の言葉に彰吾は、ふふっと笑うと、 「出会った回数なんて関係ない。あの夜から俺にはあなただけだ。それこそ、一人でヤるときに思い出していたのは、あの夜の魅力的なあなたの姿だったしね」  その物言いが各務とそっくりで、悠希は自分の顔が耳まで赤く染まったのが分かった。  彰吾が胸の中の悠希の唇にまたキスを落とす。直ぐに舌が割って入ってくると、彰吾は熱心に悠希の口腔を舐め回した。
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