103 / 131

第103話

 せっかく点いた火を消して、彰吾は声のしたほうへと驚きの視線を向けた。そこには昨夜、この部屋へ訪ねてきたときと同じように、きちんと身支度をした悠希が立っていた。 「悠希……」  彰吾が呟いた自分の名前を悠希は顔を顰めて聞いた。そして、ふう、とため息を漏らすと、 「早く起きて服を着ろ、相原。この時間なら一旦帰宅してから出社してもまだ間に合う」  こつこつと窓へと近寄る悠希に、出社? と聞き返してしまう。 「そうだ。まさか出向一日目で遅刻や欠勤をするわけじゃないよな?」  冷たい物言いは昨夜、彰吾の腕の中で啼いていた同一人物とは思えない。だが、そんな態度の中にも、どこか潤んだ雰囲気が潜んでいるのを彰吾は感じ取った。 「いくら親会社に籍があるとはいえ、おまえは今日から俺の部下だ。こんなことで遅刻をするのなら、直ぐに出向解除にしてもらう」 「悠希」  名前を呼んだ彰吾に窓の外を眺めていた悠希が振り返って、 「それから俺のことは今後、藤岡主任と呼ぶように。職場はもちろん、二人きりの時も」 「二人きりの時も?」  全裸のまま起き上がってベッドに腰をかけた彰吾を見て、悠希の瞳が恥ずかしそうに宙を泳いだ。 「二人きりのときは名前で呼び合ってもいいじゃないか」 「だめだ。誰に聴かれるか分からないから。それに……」 「それに?」  少しの間、悠希が言葉を選ぶように黙ると、ふっと頬を赤く染めて、 「名前を呼ぶのは……、ベッドの上だけにしてくれ」  ぶわっと彰吾の全身が総毛立った。裸足のままでベッドを飛び出すと、驚いた表情の悠希へと大股で近寄って、強くその体を抱き締める。悠希は慌てて、 「ばかっ! 相原、早く服を着ろっ! 外から見られる」  高層階にあるこの部屋の窓を誰が外から覗けるのか。でも、そんな心配をする悠希が可愛くて仕方がない。  彰吾はまだ小言を言おうとした悠希の口を塞ぐと抱き締めたままベッドへと引き摺って、そのまま二人で寝乱れたシーツの上に倒れ込んだ。強く吸い付かれた唇を、ぷはっと離した悠希が、 「何をするんだ! 早くここを出ないと遅刻するだろっ」 「大丈夫、まだ十分に時間はあるよ」  また柔らかな悠希の唇に、ちゅっちゅっと吸い付いてスーツの上から体をまさぐると、スラックス越しの悠希の花茎が緩くそそり立とうとしているのが分かった。

ともだちにシェアしよう!