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第121話
最上階の展望室に着いても、あまりの人の多さに悠希と彰吾は呆気にとられてしまった。入場制限はしているようだが、アジアからの観光客の団体はわあわあとあちこちに散らばって騒ぎたてている。
「こりゃ……、夜景をゆっくり観ようっていうムードもへったくれもないですね……」
隣の彰吾の呟きも周囲の声に掻き消されてしまう。それでも、二人で大通公園を観てみようと団体客の後ろに並んだ。
「何だか思い出すな」
人混みのせいで、ここでも隣の彰吾と肩が触れ合ってしまう。笑いを含んだ彰吾の言葉に、えっ、と悠希は聞き返した。
「ほら、あの旅行で行った旭山動物園で太田さんと山本さんが大変だったじゃないですか」
太田と山本は悠希の同期で当時の社員旅行の幹事を共にしていた。確か、彰吾と園内を廻っていた時に……。
「中国からの観光客の夫婦に道を聞かれて答えられなくて、その内、その夫婦が派手な喧嘩をはじめて……」
(ああ、そんなこともあったな)
あの旅行のことは残念ながらぼんやりとしか覚えていない。でも、彰吾の記憶は鮮明なようだ。時々、彼が口にするあの二泊三日の思い出は、まるで初めて経験するような話もあって、どれだけ彰吾にとっては忘れ難いものだったのかと自分との違いを認識させられた。
やっと、大通公園が臨める大きな窓へと近づいてきた。その頃には海外からの団体客は予定時間がきたのか、今度は下りのエレベーターを待つ長い列を作っていた。
少し人が捌けてきて悠希はほっとする。それでも彰吾は悠希に体を寄せたまま、展望室から眼下に拡がる大通公園のイルミネーションを二人で眺めた。
このテレビ塔から真っ直ぐに延びた道路の真ん中の公園には、先日までの雪まつりの名残がある。小高く積み上げられただけの雪の山。あと数日、北海道への出張が早ければ、ライトに照らされた大きな雪像やそれを見上げる観光客がミニチュアのようにここから眺められただろう。
二人で窓の外を眺めていると彰吾の吐息が右耳を掠めた。気がつけば彰吾の左手が悠希の左肩に添えられ、おまけに半身も押しつけられているのが背中に感じられた。悠希は微かに右へ顔を動かすと、
「あまり近寄ると他の人に」
だが、どうも彰吾の様子がおかしい。悠希はさらに後ろへと顔を向けると、新たな観光客の団体が押し寄せたのか、展望室は身動きが取れないほどの人で溢れ返っていた。どうやら彰吾はここでもずっと悠希を大勢の人の圧迫から守ってくれていたらしい。悠希は涼しい顔をしながらも奥歯を噛み締めている彰吾の様子にくすりと笑った。展望室の窓の外の煌く夜景に、また雪が降り注ぎ始める。
「……もう帰ろうか」
さすがの彰吾も悠希の提案に、そうですね、と素直に従った。
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