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「大樹さん、お久しぶりね。元気にしてたの?」 「はい。麗子(れいこ)さんも元気そうで何よりです」 昔から父親と母親も厳しかった。 特に母親の長山麗子(ながやまれいこ)は 自分に対して礼儀や勿論、音楽のことになると人一倍厳しく指導してきていた。幼少期から習わされていたピアノとヴァイオリン。同級生は楽しく放課後遊んでいるのが羨ましくて辞めたいと母親に泣きついても、辞めていいなんて許しを貰ったことは無い。 嫌でもやらされて、練習中に母親の前で思うような音が出せないと弓で手首を叩かれることが殆どだった。幼い時からの印象が根付いているせいか、大学院の教授よりも実母へと態度の方がいつも以上に神経を使う。 「じゃあ早速だけど聴けせて頂戴。貴方のヴァイオリン聞きたいわ」 母親は当然のように言ってきてはストールを羽織り直すとそそくさと2階へ繋がる階段を上がって行ってしまった。 息子の顔が見たいから呼びつけたんじゃないのは明確で、息子の腕が落ちてないか品定めするため。 ハードケースを握る手に力が入る。 黒いハードケースの中身は勿論ヴァイオリンだ。この家系が空気が音楽家の息子なんだから、それが嫌で15歳の時に父親に反発して、ヴァイオリンもアイドルとして音楽に関わることを辞めたのに、音楽の世界から抜け出しでもなお、母親から逃げられずにいた。 深く息をついては母親の後に続いて2階へと上がると、それなりに長い廊下を歩いて突き当たりにあるレッスン用の一室の扉を開く。 グランドピアノの椅子に座り、身体を此方に向けると鑑賞の準備万端の姿勢で待ち構えていた。大樹は母親の前に立つと、ハードケースからヴァイオリンを取り出し、顎に挟んでは構えをする。 選曲は決まっていて、母親が最も好んでいる曲。母親の圧から緊迫とする中、大樹は集中力を全て注ぎ込んで、ひとつひとつの音を大事に音色を奏でていった。 演奏が終わり、楽器を身体から離しては母親の感想をじっと待つ。

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