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そして、一番藤咲の耳に入れたくない話も聞いた。宏明にピアノを触らせたことに激怒していた藤咲が聞いたら絶対に取り乱しそうな話。兄に対しての貞操のなさに頭を抱えるくらいで、そんな兄でも何をしても許される程の人間的な魅力を持っているのかと呆れる。 「藤咲のピアノを調律師してたって本当ですか?」 「ああ、俺もビックリしたよ。師匠の専属の一人が尚弥だったなんて。でも尚弥の母親は優しいね、ちょっと構ってやったら過去を帳消しにしてくれた。最初は尚弥に会わないようにしてくれって懇願されてたんだけどさ。本人にコソコソしてるうちに会いたくなってさ」 宏明の話を聞いているうちに自然と拳を握る。兄が恐ろしくて、足元は後方に引かせて逃げ腰。決して反発などできないくせに腹立たしいと思う。 「俺のピアノで尚弥が弾いてると思うと教えていた頃思い出してさゾクゾクして、たまらないんだよ。成長した尚弥は一段と気品があって美しいね。だから余計にこの手で汚したくなる」 世の中には様々な思考の人がいる、故に苦しんでいる人だっていることも。しかし、だからって簡単に許されることじゃないし、していいことと悪い事がある。 自分の欲求の為に既婚者に手を出すことも、その未成年の子供に手を出すことも道理を外れた行いだ。 あの日の出来事を思い起こさせる。 自分は見ていた幼い藤咲が、今にも泣きそうにしていたのを……助けられなかった過去を……。 反省していると言っているのは宏明に甘い人達の言い分で、本人の態度からは全く悪びれていないように感じた。

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