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君との初対面

宏明の姿が見えなくなった後、大樹は床に蹴り倒されたヴァイオリンケースを拾い、土埃を払った。 両親からの期待と兄からの嫉妬の圧に脅かされながら半ば強制的に続けていたヴァイオリンだけど全てが全て悪い訳じゃなかった。少なくとも藤咲のおかげで楽しいと思えていた時期もあった……。 12年前の桜が開花を始め、大樹は高学年を迎えた頃。4月のコンクールに向けて麗子の指導にも熱が入り、より一層に厳しくなるレッスン。母親の怒号が飛ぶ自宅のレッスン場。 そんなある日の日曜日も朝からぶっ通しで練習をさせられていた。 そんなことよりも、大樹は先日許しを貰って参加できた放課後のレクレーションで天体観測をしてから天体化学だとかに興味があって図書館に行きたかった。しかし、そんな気持ちの揺らぎはすぐに音へと伝達され、母親勘づかれては、指導が入る。 だから大樹は今この時間に没頭するように子供ながら意識をしていたが、朝からの疲労と半ば乗り気ではなかったせいか、何度もやっても思うようには弾けていなかった。「やめやめ。どうして直しなさいって言ったところ、直ってないの」などと一節引く度に止められるの繰り返しだった。 麗子が頭に血を通わせている中、正午を回った辺りで部屋の扉がノックされ、開けられると、宏明が入口に凭れて立っていた。 「母さん、そんなに大樹を虐めたら可哀想だよ。それにそんなに血圧上げたら母さんの身体にも触る」 優しい笑顔で微笑む宏明に心和まされたのか、俺の前では鬼のような形相をしていた麗子が一瞬にして綻びをみせた。 「宏明さん、優しいのね。でも大樹さんは絶対に賞をとらなきゃならないの」 「まぁまぁもうお昼だし少し休んだら? それにちょっと大樹借りていい?気晴らしに藤咲さん家に連れて行こうと思うんだけど?」 宏明は麗子肩に軽く手を乗せて慰めると、ヴァイオリンを持って立ち尽くしていた大樹に近づき肩を抱いた。母親は宏明の言葉をすんなり受け入れると「そうね、あそこの家の子は完璧だから大樹の刺激になるかもしれないわね」と言って承諾する。 この二人が自分の目の前に揃っているだけでも身体が竦み上がるのに兄に肩を抱かれて自分は何処へ連れていかれるのだろうかと不安でしかなかった。

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