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宏明が運転する車に乗せられ、兄が毎週日曜日にヴァイオリンの個人講師をしているという藤咲の家まで辿り着いた。広さはウチよりも広い500平米はありそうで、明らかにデザイナー建築のような二階建て一軒家。音楽家の家だと言われれば納得するくらい、外壁から全て白に統一されたモダンな外観だった。
インターホンを鳴らし、宏明が「長山です」と応じただけで鍵が開かれると我が家のように何食わぬ顔で堂々と中へと入っていく。それに対して大樹は「お邪魔します」と小声で呟きながらも兄の後へとつづいた。
家主は中に居るのか、誰も玄関先ですら出てくる気配がない。やけに物静かな家に本当に中に人が居るのか疑う程だった。
少し歩き、階段を上がっては2階の奥から二つ目の扉が開かれると、部屋の中心に置かれたグランドピアノの椅子にちょこんと自分よりも年下の男の子が一人座っていた。
「宏明先生、こんにちは」
男の子は俺たちを見るなり、椅子から飛び降りるようにして立ち上がると深くお辞儀をする。少し切れ長の瞳はキラキラして、純真無垢そうだった。美少年と言われたらその通りの容姿。笑顔で挨拶をしてきていたので、大人からも好かれそうだった。
「こんにちは、尚弥」
宏明は男の子の前で屈むと、自分に向けるよりややトーンを上げて話しかけていた。
「先生に教えてもらったとこちゃんと練習しました」と報告する男の子の頭に宏明の手が伸びる。優しく撫でられている姿を見て、特に兄を好いている訳では無いが少しだけ羨望な眼差しを向けていた。
やはり、自分の前だけ……当たりが強い。
「尚弥。先生はお父さんとお話があるから、こっちのお兄ちゃんとしばらく遊んで待っててくれるかい?」
男の子の目線が自分へと向けられるとすぐ様宏明に戻され、「はい」と返事をしていた。
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