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この子と遊んで待つなんて話以前に、此処に来た理由さえ一切聞かされていなかった。 宏明は男の子にもう一度笑顔で微笑むと真っ先に自分の前まで寄ってくる。 当然のように男の子に向けていた笑顔はなくなり、冷たい視線を送ってくると「部屋から出るんじゃねーぞ」と強い口調で囁いてきては、出ていった。 初対面の子と何して遊べというのだろうか……。 どうやら俺は兄にお守りを頼まれたらしい。 二人取り残された部屋の中で、男の子と目が合う。真ん丸い瞳で男の子は不思議そうに此方を見つめてくるだけで、何もアクションを起こしてこない。ここは年上であろう自らが歩み寄るべきだろうかと考えては、大樹はゆっくりと近づいた。 「あーえっと……長山大樹って言うんだ。よろしくな。君の名前は?」 大樹は男の子の目線に合うように少しだけ膝を折ると笑顔で挨拶をする。 「藤咲尚弥です。よろしくお願いします」 男の子は大樹に応えるようにして、何倍もの笑顔で名前を名乗ると丁寧にお辞儀をしてきた。表情や雰囲気からして警戒心を感じられないので人懐っこい子なのだろう。 最初こそは何を話せばいいのか戸惑っていたが、尚弥の好きな曲を聴いてやると嬉しそうに答えては自信満々に弾き始めたので大樹は近くにあった椅子に座り、聴いていた。 多分最近の邦楽だと思う。 大樹自身そう音楽に深く興味がないが、この曲は聴いたことがあった。年長さんから低学年くらいの子達の中で流行っていて曲が流れ出すと踊って歌う子が殆どで社会現象になったとテレビでやっていた記憶がある。 大樹がよく知らない曲でも楽しそうに弾く姿を見てこの子は心から弾くことを楽しんでいるんだと心暖かい気持ちになった。母親に叱られながらも、半ば強制的に弾いている自分とは違う。尚弥の弾く姿は自分をも楽しくさせた。そんな大樹の胸をワクワクさせたまま一曲を終える。 「大樹くんの好きな曲は?」 曲を弾き終えた尚弥が此方を向いて問いかけてきた。

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