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レッスン前に弾き合いっこして、家族ぐるみでのホームパーティでも常に一緒に遊んでは親交を深めながらもそんな関係が2年程続いていた。
藤咲と弾くのは楽しくて、弾いてる自分のことも好きになれた。だが、それは大樹がヴァイオリンを続ける理由にはならなかった。目の前にすると心が竦む二人の存在が消えるわけもなく、常にプレッシャーと妬みの種が付き纏う。ヴァイオリ二ストとして弾くことに楽しさが見い出せてなかった。
大樹の気持ちを置いていくようにヨーロッパのコンテストに行くまでの才能に恵まれていたが、小学校も卒業を迎え、自分の興味があることに全力で取り組みたいという意思が強まっていた大樹は父親にヴァイオリンを辞めることを告げた。しかし、そう甘くはなかった。
タレントでもあった父親に、ある日唐突に横のつながりのある芸能事務所に連れて行かされ、ダンスや歌のレッスンをさせられるようになった。
ヴァイオリンがダメならタレントになれって言うことなのだろうか……。自分が望んでいた、音楽を辞めて普通の子のように勉強して好きな事に取り組む願いと違ったが、兄の自分に対する妬みや罵りはヴァイオリンをしていた頃よりはマシになったし、母親と顔を合わせることも少なくなった。
「大樹くん。最近、全然来ないよね。レッスンだってすぐ始まるし、高崎さんピアノ弾けないからつまらなかったんだよ……」
藤咲の部屋に入るなり飛んでくるかのような勢いで彼が駆け寄ってきた。久しぶりの藤咲家と尚弥。芸能事務所に所属したことによって連日のヴァイオリン練習から土日はダンスレッスンへと変わる。藤咲家に行く回数も兄と時間が合うこともなくなっただけに減っていった。
大樹が不十分家に行けなくなったことによって、宏明の密会の回数は減ったらしいが、時折高崎を連れ出して、主人と話している時は尚弥の面倒を見てもらっているとかいないとかを高崎と宏明が話しているのを耳にしていたことがあった。どうやら尚弥の話によるとそれは本当のことのようでこの期に及んで未だに密会を続けているらしい。
そんなこともあり、尚弥には自分がヴァイオリンを辞めてタレント活動をしているなんて話していない。勿論これからデビューするために連日レッスンしていることも……。
「尚弥くん、ごめん。俺さ、ヴァイオリン辞めたんだ」
だけど頬を膨らませ、拗ねらせている尚弥を見て、この子にはちゃんと話しておかなきゃいけないような気がした。ただ、尚弥の反応を見るのが怖かった。あんなに音楽が大好きの尚弥はどんな反応をするんだろうか……残念に思うだろうか。
大樹には尚弥にだけは失望されたくないという気持ちが微かにあった。
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