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大樹の話を聞いた尚弥は、目を丸くすると直ぐに不穏に思ったのか、瞳が揺れた。 「大樹くん、ヴァイオリン、嫌いになったの……?」 「そういうわけじゃなくて……ヴァイオリンより勉強の方がしたいなって思ったんだ……ほら君に話しただろ?星とか宇宙とかに興味があるって……だけど父さんが許してくれなくてさっ……だから今は、俺より3つ上の子とレッスンしてる…」 幼い尚弥に上手く伝わるか分からなかったが、今置かれている状況を包み隠さず話す。 自分がヴァイオリンが嫌で辞めたわけではないこと、星が好きなことを納得したのか、尚弥の不安げな表情はなくなったが、首を傾げて此方を見つめてきたままだった。 「レッスン?」 「アイドルになるんだ……」 テレビの中の笑顔で歌って踊っている人達とは一生無縁だと思っていただけに、声に出して言うとむず痒い気持ちになる。 「アイドルってテレビで歌って踊ってる人だよね?」 「うん……」 ヴァイオリンを辞めるための条件に芸能人になれだなんて無茶苦茶な話だが、自分がそれ以上に逆らうことが出来なかったのも事実。 それでも芸能界と両立して好きな事をさせてもらえることにはなったのだから致し方なかった。ヴァイオリンも辞め、アイドルになるなんて、目の前の尚弥はどう思うんだろう……。 じっと見つめてくる瞳だけじゃ分からない。 緊張で唇が乾いては失望という言葉が浮かんでは消えていく。唯一自分のヴァイオリンを褒めて、弾くことの楽しさを教えてくれた彼にだけは拒絶されたくなかった。 拳に汗を握らせながらも尚弥の表情を伺う。 尚弥は戸惑うような素振りも見せずに顔を上げると大樹に向かってニマっと満面な笑みを浮かべてきた。 「凄いね!!大樹くんがテレビでたら、僕絶対見るよ!」 失望するどころか、瞳に星が散らばるくらい輝かせては羨望の眼差しを向けてくる。 唯一自分を認めてくれる存在。否定するのではなく肯定してくれる尚弥の反応が大樹には心地よかった。

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