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そんな尚弥が応援してくれていると思うと最初は乗り気ではなかったレッスンも頑張れた。尚弥も尚弥でコンテストでは必ず賞を取る程の才能を持っていて海外にまで進出していたりと順風満帆。
中学二年が過ぎた頃、1年間のレッスン期間を経てついに当時高校2年生の|麻倉律仁《あさくらりつひと》改め、浅倉律 と共に永山大輝 としてデビューする日が決まった。今年の7月末だ。
相手が子役時代からの有名人とのユニットなだけあって世間の注目度は篤かった。
大樹は律仁のお飾り感が否めなかったが、律仁自身は決して高飛車な態度を取るわけでもなく、自分と同等に接してくれて、この人とならと思えるほど馬が合っていた。
本格的にデビューして忙しなくなる前に尚弥に報告したくて、兄に頼み込んでレッスン前に上げてもらえることになった。もちろん兄は躊躇うこともせず尚弥の父親の部屋。
尚弥に嬉しい報告がしてやれると思い、はやる気持ちで部屋に入ったところで、何時も俺が入ってくるなり笑顔で駆け寄ってくれる尚弥の姿はなかった。
静かにピアノの前に座り、此方に一切目を向けない。何かに脅えるように身を縮こませ、
扉が閉まる音と共に小さい身体がビクリと跳ねた。天真爛漫の彼は何処へ行ったのかと言うほど彼の周りに負のオーラが漂っている。
大樹が「尚弥くん……?」と呼んだところで漸く顔を上げると怯えた様子から安堵したかのように肩を落としていた。とても自分の報告をできる状況ではない。
「大樹くん……」
今にも泣きそうな尚弥の表情を見て只事ではないのを察した。大樹はゆっくりと尚弥の元へと近づくと尚弥の視線と合うように少しだけ腰を屈ませた。
「どうした?尚弥くん」
そう潤んだ瞳に問いかけると膝をついていた手の右腕を強く握られた。
「大樹くん、僕が先生とレッスンしている時も一緒にいて?」
今までそんなことを言われたことがなかっただけに吃驚した。当たり前のようにレッスンの時は速やかに部屋から出て行っていたのは、尚弥も宏明に懐いている様子だったからだ。大樹が「どうして?」と尋ねると尚弥は腕から手を離すと、深く俯いて、膝の上で強く握りしめていた。
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