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「怖いから……」
消え入りそうな声で呟く。
今にもその小さい身体が縮んで無くなってしまいそうな程、覇気のない尚弥に大樹は嫌な予感がした。
「怖い……?」
「僕、先生が怖いんだ…」
兄が怖い……。
まさか……もしかして……なんて。
尚弥がこうなるまで追い込まれる出来事。天使のような笑顔を失わせない為に守って自分が隠し持っていた秘密が頭の片隅に浮かんでは、どっと心臓が走り出す。
「僕、見ちゃったんだ……この間、学校から帰ったらレッスンの日じゃないのに先生の靴があってお父さんの部屋に行ったら先生がいたんだ……。なんか……悲鳴みたいな声が聞こえて部屋を覗いたらお父さんと先生がベッドの上で裸で抱き合ってた……僕、なんか怖くて……逃げたら先生にみっ……見つかってっ……」
話しているうちに尚弥の瞳から涙が溢れ出す。両手で目元を抑えて、ひくひくと引きつけを起こしながらも自分に訴えようとしてくる彼の背中をそっと撫でた。
「怒ってた先生に……僕どうしたらいい?って聞いたらお父さんとお母さんと離れ離れになりたくないなら先生の言うこと聞けって言われて……それからレッスンの時は必ず身体をベタベタ触ってくるようになったんだっ……僕、それが気持ち悪くてっ……」
自分に対してだけ、昔から傲慢な態度の宏明は百歩譲って諦めはついていたし、怖いなりに距離感を保ってきた。しかし、今回ばかりは、身内の俺だけならまだしも、尚弥にまで不都合が起きた途端、脅迫することで相手の心を支配しようとする兄が許せなかった。
「大樹くん怖いよ……」
自分が何とかしなければ……と、終始身体を震わせて涙ぐむ尚弥を前に正義感に駆られて
「分かった、俺がいてあげるよ」と大樹は尚弥の背中を擦りながら言ってみたが、果たしてあの兄を前にして俺は強気で出れるだろうか……自信はなかった。
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