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幸い、事務所には同じくらいの年の子や少し上の高校生だとか俳優、アイドルなど地方住まいの子達が挙っと集まっている寮というものがあった。俺の相方もそこに住み込んでいるといるので親交を深める意味では丁度よかった。
そうと決まれば、マネージャーの吉澤さんに連絡をして翌日には入所出来るように手続きをしてもらった。卑怯だけど、この苦しみ、恐怖から逃げるにはこれしかなかった。
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行きは高崎の車で送迎してもらったが、帰りはタクシーを使って駅から電車に乗り、自宅へと帰った。あの実家と久しぶりに宏明と対面したことから鮮明に思い出される尚弥のことに辟易としながら、自宅に帰るなりヴァイオリンケースと鞄をソファに置くと真っ先にベッドに横たわった。
手の甲を額に当てて、天井の照明をじっと見つめる。
寮に入った後、実家から逃げることで落ち着いた気持ちは次第に尚弥への罪悪感が大きくなり、謝りたいと強く願うようになった。
しかし、もうそんな願いなど叶うことはないと分かっていた大樹は償うかのように、周りには常に優しくしてきたし、気を回すように心掛けてきた。
何処に居ても切っても切り離せない父親の息子という肩書きが鬱陶しくて結局、辞めてしまったアイドルの後も、勉強は人一倍したし、大学のサークルでも気づいたら頼りになる先輩と言われるようになった。
そして、渉太に出会って。周りに溶け込めずいつも一人でいた彼に先輩心から一人にならないように積極的に自分から話しかけて、天体の話をすれば笑顔で聞いてくれる彼の姿が俺の演奏を一生懸命聞いてくれていた藤咲と重なり、少しだけ特別視をしていた所があった。
渉太に優しくしたところで藤咲に対して償ったことにはならないし、何処まで醜い人間なんだと自分で自分を蔑みたくなる。
宏明に対して言い返す勇気は持ててもそれが持てたところで何も変わらない。今の尚弥を護る資格なんて自分にはなかった……。
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