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「先輩。あの食事の時、振りですね」 「2週間くらい前ですよね」なんて呟いては指折り数えた仕草をみせる。かと思えば、背筋を伸ばすと、「この間はすみませんでした」と腰を折って謝罪をしてきた。謝られる様なことをされた覚えがない大樹は首を傾げて、渉太をじっと見つめは「どうした?なんかあったのか?」と問いかけると渉太はゆっくりと上体を起こした。 「尚弥を引き合せるようなことをしたから大樹先輩に余計なことをしてしまったんじゃないかって気にかかっていたので……」 食事の帰りに律仁が渉太に御礼を言っておけと洩らしていたのを思い出す。渉太と律仁が気を遣って尚弥と引き合せるセッティングをしてくれたが、結果は惨敗だった。 「俺は別に楽しかったから気にするな。むしろ、ありがとうな。まぁ、あの後藤咲と話して仲直りどころじゃなかったけどな」 気にしている渉太に余り気負いをさせないように眉を下げて、後頭部を掻いては自虐的に笑顔を添える。しかし、渉太はどこか腑に落ちないような顔をしていたのでこの話題は強制的に終わらせることにした。 「何買いに来たんだ?」 渉太の腕に抱えているA4サイズのそれなりに厚さのある本に目線を向ける。本の表紙から誰かの頭が見えたので写真集だろうか。 問いかけた渉太の耳朶がみるみるうちに桃色に染まる。手にしている本について話すのが恥ずかしいのか「これは……その……」と口をどもらせていた。 「ああ、律の写真集か」 渉太が写真集を買うなんて律のもの以外考えられず、大樹から言ってやると渉太は大きく頷く。 「はい……俺、律仁さんのこと凄く好き好きアピールしてるみたいで恥ずかしいです……」 律のライブに行った時も見た事がないくらい目を輝かせていたし、今も恥ずかしさの中にも嬉しそうにはにかんでいるようにもみえた。こんなに律でも律仁としても好かれて、さぞ本人も喜ばしいことだろうと、心が温まる気持ちになった。 「恥ずかしい事じゃないよ、好きなんだろ?律仁は渉太に愛されて幸せだろうな」 大樹の言葉で追い打ちを掛けられたか、渉太は顔から火でも出るかのように首筋にかけて真っ赤させながらも俯きがちに頷く。写真集を更に強く抱き締めるかのように抱えていたので、相当照れているようだった。やはり、一生懸命で正直な可愛い後輩だなーとしみじみとする。

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