42 / 292

精一杯のごめんなさい

「うわっこれは酷いなー」 病院内も静かになり、日も暮れ始めてきた頃。病室扉が勢いよく開かれ、大樹の姿を見てくるなり、サングラスと帽子をを外し軽い口調で話しながら入ってきた。 身バレ防止のため、バケットハットを被って撤退しているが、やはり芸能人である雰囲気は、入ってきた時から微かに漂っている。唯一の救いは、此処が個室であることから、騒ぎになる心配はないことだった。 「入ってきて第一声がそれか」 痛々しいくらい右腕に巻かれ、胸元に固定されたギプス。あのパーティの藤咲を送った後に右腕の激痛が収まらず、夜間病院へ駆け込んだら骨折だと診断され、二週間程の入院を余儀なくされた。 「だってさー大樹が骨折して入院したって聞いたから冷やかしにきた」 ニタニタと頬を緩ませながら、此方の様子を面白げに見てくる律仁が憎たらしい。 大樹があからさまに怪訝そうな表情をすると 「冗談。お見舞いだよ、お見舞い。機嫌損ねるなって」とすぐ様訂正をしてきた。 病院ベッドのテーブルに無造作に手土産を置かれる。明らかにコンビニで買い物したであろう乳白色の袋。大樹はお礼を言っては中を覗くとフルーツゼリーや乳酸菌飲料が2、3個入っていた。 芸能人とかだと何処どこの有名なお菓子屋とか箱に入ったお菓子を持ってきたりとかしてきそうだが、これくらいの律仁の気さくさは個人的に変に畏まらなくていいので気が楽だった。 「先輩、大丈夫ですか……?」 律仁の背後からひょっこり現れるかのように、渉太が顔を出す。眉を下げて心底心配そうにしている彼はどっかの誰かさんと違って 、下手な冗談なんか言わず優しさが溢れた言葉に涙が出そうになる。 「大丈夫だよ。安静にしてれば治るから。渉太もありがとうな」 不安が拭えてないような渉太に大樹が笑顔で応えてやると少し安堵したのか胸を撫で下ろしたようだった。 「というか、どうしてこんなことになった?」 律仁たちがお見舞いに来たからには、骨折の理由を聞かれるのは覚悟していたが、心臓を摘まれたように少しだけ心拍数が上がった気がした。 「まー……大学の階段踏み外して打ちどころが悪かっただけだ」 兄が投げたパイプ椅子が原因だなんて、友人でも家庭の事情が絡んでいるだけに詳しく話す訳にはいかない。これは内輪の話。ましてや律仁の性格上「災難だったな」程度で済ませてくれないだろう。 何を仕出かすか分からない兄、目をつけたら芸能人だろうと容赦はないだろうし、内に秘めている情の厚さと正義感の強さを知っているから、律仁だって売られた喧嘩は全力で買いそうでそれは避けたかった。

ともだちにシェアしよう!