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「大樹ってそんなおっちょこちょいだったっけ?」 目を細め訝しげに顔を除き混んでくる律仁に本当のことを隠しているのをバレぬように平常心を取り繕う。律仁は昔から人の微かな気持ちの変化に敏感なやつで自分の様子が少しでもおかしいと疑ってかかってくる。 確かに、日頃「大樹は年下なのにしっかり者」だとか「お母さんみたい」だなんて思っている奴が急に不注意を起こすなんて怪しむのは当然だった。ましてや、律仁との関係は昨日今日の話じゃない。 「猿も木から落ちるとか言うだろ?俺だってぼーっとするときくらいあるんだよ」 そうか…?と疑うのを止めない律仁は途端に何かを諭したかのように病室の入口を一瞬見遣ると「まー確かにねー」と納得した振りで間を伸ばしながら意味深に肩を叩いてきた。 この様子だと、洞察力のある律仁なら詳しく話さなくても誰が自分に危害を加えたかくらい分かっていそうだった。 律仁は俺の兄がどうしようも無い屑であることを知っている。寮生活をしていた頃、お互いの家の事情を話したことがあるからだ。 そして彼自身もコンサートの時に兄と面識があるはずので、兄の本質は見抜けているはずだった。 今は渉太がいるから深く問い詰めてこないだけ、彼も大事な人を守る立場でもあるし渉太を巻き込みたくない様子だった。 俺には律仁への前科があるし、尚更、二人には迷惑を掛けられない……。 「でも大事に至らなくて良かったです……先輩、元気そうで俺、少し安心しました」 「ああ、右腕以外は元気だからさ」 大樹は何でも真意に受け止めてしまう渉太に、左肩を回して元気アピールをする。 そんな渉太とのやり取りをしている中、律仁がサインペンを取り出してくると悪戯に笑みを浮かべながら、ギプスに落書きを始める。 「律仁、お前何してんだよ」 「メッセージでも書いてやろうかとおもって大樹頑張れって」 夢中でペンを動かす律仁に、腕を上げて避けても首から下げて固定されている以上、上手く避けられない。そのうち、じっとしていない俺に痺れを切らしたのか「動くなって」と肩ごと抑えられてしまった。

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