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今までの威勢や冷たく突き放すよう余裕が失われたかように、弱々しい藤咲の姿を見て不謹慎ではあるが、守ってあげたいと思ってしまった。守るどころか、俺は藤咲と関わることすら許されていないのに……。 「渉太も浅倉さんでさえもあんたはいい奴だって言うんだっ……僕の中では酷い奴なのに……」 「ごめん」 「優しいのは渉太だけで充分なんだよ……」 「ごめん、藤咲」 藤咲に渉太の存在は大きいのは判りきっていた。過去に何があったかは詳しくは判らないけど、蟠りが解けて藤咲は彼には見せてる笑顔があることには違いない。 藤咲だけじゃなく、律仁だって、俺だって、渉太の優しさ、穢れのないひたむきさ、温かさに救われるくらいだから……。 両手首を目元に押し付け、藤咲は泣いているようだった。俺がいる事で藤咲の辛い過去を思い出させている。だからと言って宏明のことを放って置くのは藤咲にとっても危険だ。 この罪悪感から逃れたいからやっている訳じゃなくて……彼のためになるのなら。 自分に出来ることは、藤咲を影から護ることじゃないだろうか。今回みたいに鉢合わせることのないように上手く立ち回れれば……。 宏明から遠ざけることができれば……。 「お前に言われた通り、俺は金輪際、決してお前の前に現れたりしないし、宏明のことは……俺がなんとかするから……お前に決して危害を与えないように……」 大樹が言い終わらないうちに藤咲がバッっと勢い良く立ち上がった。 「逃げんのかよ……」 「そういうわけじゃ……」 「だってそうだろっ。また僕の前から黙っていなくなるつもりなんだろっ」 「それは藤咲が俺の姿を見るのも嫌だと思うから……藤咲を苦しめたくないんだよ」 「僕が苦しもうがどうでもいい。そんなに謝るくらいなら、僕の見えるとこにいて僕を守ってよ」 涙を頬に伝わせながら、藤咲の拳が酷く震えていた。誰も頼る人がいないからこそ俺に強く訴えてくる藤咲を強く抱き締めて安心させたくなる衝動に駆られたが、この距離は埋められない。 「僕のことであんたはもっと苦しめばいいんだっ……」 もう同じ過ちは犯さないと強く誓った。 どんなことになっても、藤咲を見捨てることなんてしない。彼の楽しそうにピアノを弾くことができるのなら……願うのなら俺に向けてくれる笑顔がもう一度見ることができたなら……。

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