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40代にしてはヒールが映える長くて細い足に厚手のコートを羽織っていてもスタイルがいい事が見て窺える。藤咲にも言えることだが、上品だとか美しいという言葉が似合う美貌の持ち主だった。そんな人が兄と.......なんて考えたくもない。
近づきながら会釈をしてきた恭子さんに応えるように大樹も会釈をする。
「ご無沙汰しています」
会ったのは律のコンサートの日だけ。
藤咲に突き放されて、泣き崩れていた彼女を会場内に連れていった。その道中で、宏明のことを聞いたのが最後。
「ごめんなさいね、あなたとお話しがしたくて待たせて貰ってたの」
恭子はハザードランプを点滅させ道路端に止まっているライトブルーの軽自動車に向かって振り向く。
「俺に何か用ですか?」
藤咲のことを考えずに宏明との関係を持ったことは心底腹立たしいが、闇雲に怒ったところで、労力を使うだけ。わざわざ会いに来たというのだから、何かあるような気がして問いかけてみたが、大樹の表情は自然と険しくなる。
「ここじゃなんだから、どこかに入らない?」
そんな大樹の雰囲気から感じとったのか、苦笑を浮かべながらの恭子さんの提案に渋々のった。
恭子さんの車に乗せられ、ここら辺で落ち着いて話せるところを訊かれたので一駅程先にある馴染みの店主がいる珈琲店アトリエへと促した。
近隣のパーキングに駐車をして大樹が先陣をきってアトリエの扉を開ける。
アルバイトの若い店員に誘導されたのは窓側の座席。座席に着く前に久々に会う、アトリエの店主の黒田に挨拶をすると座席に戻り、お互いに珈琲を注文した。
しかし、珈琲だけでは物足りなかった大樹は
恭子さんに食事を済ませる快諾を貰い、昔から食べているホットサンドを注文した。律仁は美味いからと必ずたまごサンドを頼んでいるが、焼いたたまごが苦手な大樹はハムとチーズのサンドを頼む。
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