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此処の珈琲は某全国チェーン展開しているような既にマニュアルで決められた分量で豆を入れている訳では無い。注文を受けてから、店主がその日の気候や気温の微妙な環境の変化に合わせながら拘り抜いた豆を挽き始めるので出てくるまでに時間がかかる。 普段ならその時間でさえ、店の雰囲気ともども楽しんで待つが、今は違う。 「腕の調子はどう?」 「ぼちぼち.......まだ動かすのは無理ですけど」 腕のギプスを見れば一目瞭然だが、さも知っているような問いかけをしてきた恭子さんに強い疑念を抱く。 藤咲経由で話を聞いていれば自分が怪我したことは母親にも伝わっているだろうが、母親のことすら信じられていない藤咲が話すだろうかと疑問に思っていると「宏明さんが.......」と兄の名前が出てきて全身身の毛がよだった。 「恭子さん、あまりこんなことを言いたくないんですけど、自分のしていること分ってますか?」 恭子は強く心に留めているのか何度も頷いた。分かっているのなら何故兄を許すような事をしたのか理解ができない。恭子さんだって裏切られた側のはずなのだから.......。 「言い訳に聞こえるかもしれないけど.......これも尚弥のためだったの」 「尚弥くんのため?どこがですか?僕には理解できないです。尚弥くんはあなたにまで裏切られたと思ってますよ」 「知ってるわ.......あのコンサートの日から尚弥は私を拒絶してるし、現場にもついてくるなって外されたもの……」 涙ぐみながら言葉をつまらせ、話してくる。やっぱり女性の涙は狡い。自分がこの人を責めているのことに罪悪感がしてしまうからだ。実の息子に拒絶されるのは恭子さんからしてみれば辛いことだとしても、彼女のしたことは正当化はされない。

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