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「それで恭子さんはどうしたいんですか?」
自分の息子が大事なのか、あんな卑劣な宏明を大事にするのか。どっちかでしかない。
恭子さんは顔を上げ真正面から目線を合わせてくる。
「宏明さんとはもう会うことはないの。メンテナンスはもう別の方に頼むことになったし、それにあなたにも怪我を追わせてしまって申し訳無いことしたわ.......出来ればまたフランスにいた頃みたいに尚弥と二人三脚でやっていきたいの.......」
藤咲の失った信頼を取り戻すは難しいことは大樹が一番知っている。
「人のこと言えませんが、恭子さんは尚弥くんに拒絶されて当然だと思います。一時的とはいえ、尚弥くんより宏明の方の気持ちを汲み取ったんですよね。色々な考え方があるし、全て否定する気はありませんが、反省してるからもう一度やり直したいなんて虫が良すぎる。僕からは自分勝手に思えます」
それは親だからとか関係なくてむしろ藤咲は、身内の大好きだった人たちに裏切られたからこそより、傷が深いことも。
「本当に尚弥くんと和解したいのなら、行動で示すしかないと思います。行動で彼を安心させるしかないと思います。あなたも、僕も.......。あなたがどんなに辛くてもそれ以上に辛いのは尚弥くんの方です.......だからそれ以上に僕達も苦しまなきゃいけないんです。逃げていてはダメなんです.......」
俺に苦しめばいいと嘆いていた藤咲。
恭子さんに放った言葉はそのまま自分にも向けているようだった。きっと藤咲以上に藤咲に苦しまないと彼の心は解かせない。
「そうよね.......」と少し寂しそうな顔表情をみせると座席を立ち上がった恭子さんは「今日は態々ありがとうね。尚弥のパーティでのことも.......。あと、宏明さんにこれを…」と宏明宛の淡い青色の封筒を渡してきた。
中身のことを恭子さんに訊こうとしたが、
藤咲さんの遺品の中から出てきたものだけで、彼女も中身は知らないようだった。
宏明宛の手紙に疑問を抱いていると「良かったらこれでゆっくりしていって」とテーブルに数枚のお札を置かれて断ったが「付き合って貰った御礼だから.......尚弥のこと.......よろしくね.......」と大樹の返事を待たずしてお店を出て行ってしまった。
テーブルのお金と手元の封筒だけが残され、大樹は途方に暮れていた。封筒の中身が気になったが幾ら、兄のものとはいえ人の手紙を無断で開けるような不躾なことはできない。「長山宏明様」と書かれた凛とした文字。ひっくり返して封のされている側を見るとそこには「藤咲光昭」と書かれていた。
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