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藤咲は座席に置かれたお菓子を一本取り出し、無言で口に運ぶ。 されど一本のお菓子を口に運んでいるだけ…… それだけなのに、手袋越しからでも分かる細い指先がどこか怪しいよな……それでいても艶めかしさも伴う。僅かに尖った艶やかな唇に目を奪われると腹の底のザワりした感情が胸が騒いだと同時に藤咲が此方に目線を向けようとして気配を察して、大樹は咄嗟に顔を俯けた。 こんな感情は思うことすら、藤咲の前ではいけないことは知っている。そんなのは|宏明《やつ》と一緒になってしまう.......。 大樹は自分の心から気を逸らそうと「ふじさき.......」と名前を呼ぼうとしたと同時に藤咲からも「あんたさ、ヴァ......」と声が交差した。お互いの声を認識して一瞬だけ静まる二人の間に流れる沈黙に戸惑っては、向こうからの発言を促したが「あんたが言えよ、どうせしょうもない事だし」と投げたブーメランをそのまま返されてしまった。 「……あれから心配な事とかなかったか?」 藤咲に譲られた以上黙るわけにもいかずに、大樹は「そうか」と頷くと、気にかかっていた宏明のことを切り出す。藤咲は窓の外を眺めて腕を組みながら素っ気なく「別に、ないけど」と答えた。 その落ち着いた藤咲の様子からあれ以来、宏明が藤咲を訪ねてくることはなかったようで目線を落としては一安心する。 「そうか、ならいいんだ.......何かあったら連絡しろよ」 自分には藤咲を守る義務がある。いつもの後輩を思う先輩心から出た言葉だったが、隣から「何かないと……連絡しちゃダメなのか……」と呟かれたような気がして、ハッと視線を藤咲に向けたが窓の外を涼し気な顔をして眺めているだけで、目線を落とす前と変わらない。先程の言葉は幻聴だったんじゃないかと錯覚した。 「今なんか言わなかったか?」 念の為藤咲本人に確認してみたが、冷たい目線でキツく睨んでくると「言ってない」と突っぱねられてしまった。

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