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その後も少しばかり渉太と談笑しているところに、漸く律仁が腰にタオルを巻いて浴場に入ってくるのが見えた。 此方から一番近い洗い場と向かっては大樹と渉太の存在に気がつくと手を振ってくる。 律仁の見られる為に作り上げられている身体は覆う服がないのをいいことに、これでもかと見せつけてきた。通る他の客があのアイドルの律だと知ってか知らずか周りの注目を集めている。 男なら誰でも憧れ、思わず羨望の眼差しを向けてしまうような引き締まった肉体美。途端に隣の気配が無くなり、目線を向けると、渉太が顔の下半分まで潜らせていた。 大樹は渉太のその行動の意図が何となく読み取れると「どうした?」とわざと問いかける。すると、水中へと姿を消し、勢いよく上がってきては「何でもないですっ俺、湯冷ましに露天風呂行ってきます」と颯爽と浴場の外へ行ってしまった。 概ね魅力的な恋人の身体に照れたところだろうか……こうしてみると渉太って凄くわかり易い……。 必要以上に他人の心に触れ、傷つけていまうことを微かに恐れていた大樹は、何処か俺に身を引いて距離をとってくる渉太に土足でズカズカと心に踏み込むようなんて真似は出来なかったし、告白をされるまで全くと言っていい程渉太の気持ちには気づけなかった。 律仁という共通点ができたことで渉太と深く関わっていくうちに、表面上でしか見えていなかった渉太の人間性をよく知ることが出来き、そして今、その後輩に励まされた……。 いつか、藤咲のことも分かち合える日がくるだろうか………。 藤咲のことを考えれば考えるほど、施設内にいる彼のことが気になり始めた大樹は、湯船から立ち上がると、洗い場で頭を洗っている律仁の元まで近づき、声を掛ける。 「律仁、俺。先に出るわ」 大樹に声を掛けられると顔を少しだけ上げ、シャンプーが目が入らぬように片目を開けては、大樹であることを認識したのか「おう、あれ、渉太は?」と問いかけてきた。 「露天風呂の方に行った。お前、可愛いくて頼もしい恋人を持って羨ましいよ」 勿体ないことをしたかもなー……なんて今更のことを思想しながらも、口惜しくなった気持ちをぶつけるようにして律仁の肩を叩くと「はあ?」と状況を把握出来ていない律仁を振り返えらずに浴場を後にした。

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