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「ダメです」 瓶を抱き、意地でも渡さない渉太に対して目が据わったまま何度も手を伸ばしてくる律仁。大樹がその手を掴んで「律仁、やめとけ」と渉太に加勢をしたが腕を払われると「たいちゃん、うるさいー」と普段呼ばないであろうあだ名で呼ばれて拍子抜けした。 藤咲は口元を覆い、離れた所で肩を揺らしては笑っているようだし、渉太は完全に困り果てている。 「しょーた。ちょーらい」 かと思えば、渉太に瓶を催促する表情は今朝方みた律仁のお強請り顔で、酔っ払っているせいか、赤みを帯びた肌がやけに艶っぽい。そんな律仁からのお強請り攻撃を食らった渉太は右手で顔を覆いながら酷く悶えていると大樹の手に瓶が渡された。 「先輩.......律仁さんを説得して貰えますか....。俺、こんな律仁さん可愛すぎて無理ですっ。こんなお強請り顔なんて.......貴重すぎて.......俺、こんな強請られたら渡したくなっちゃいますっ.......律仁さんがこれを渡してふにゃって笑うんだって想像したら.......」 素面のはずの渉太の顔が真っ赤になってくる。律仁自身が自分の強請り顔は珍しいと言っていたように、渉太も見たことがなかったような反応。 閑散とした周りと湖畔が近いから底から流れてくる冷気で、とてもじゃないけどコートを羽織らなければ寒いはずなのに、渉太の一体から湯気が浮遊しているのが見えて、相当体温が上昇しているようだった。 「これ渡しとけ」 そんな律仁によって取り乱した彼の変わりに 2リットルペットボトルの水を渡すと、律仁はなんの躊躇いもなくグラスに注ぎ出す。多分これが水だって分かって無い。本当にこれ以上呑ませるのは危険だ。 「勝手にしとけばいいじゃないですか、浅倉さん楽しそうだし」 ずっと一連の流れを黙って傍観していた藤咲から冷水を浴びせるような冷めたい言葉が飛んでくる。 羽目を外す律仁にも相変わらずの藤咲にも呆れてものが言えずにいると、気がつけば律仁はテーブルに頬を伏せて、ペットボトルを抱きながら寝息を立て始める。早朝から長旅運転をさせてしまったし、彼も彼で疲労が蓄積されていたのだと思うときつく咎めるのも可哀想な気がした。

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