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「高崎さん、ここまで来て貰って申し訳ないんですけど、今は実家には顔出す気はないので.......」
実家に帰省しない旨を高崎に話すと「しかし……」と高崎は困惑したように眉をしかめていた。母親にキツく連れて帰るように言われて居るんだろうか·····あの人なら言いかねない。
「怪我は治ってきてますが、学業が忙しくて今は帰れないので後日連絡しますと伝えてもらえますか?取りあえず今日は俺も出先で疲れているので·····」
高崎は何処か腑に落ちない表情を見せたが、すぐさま「畏まりました。あまり麗子様にご心配をおかけすることないよう御気をつけて下さいませ。失礼致しました」と会釈をすると駐車場の方へと踵を返していった。
高崎の遠くなる背中を見送るとマンションの自動扉を抜け、郵便受けの手紙の確認する。ふと、恭子さんから貰った宏明宛の藤咲の父親からの手紙の存在を思い出した。もしかしたら高崎なら宏明と藤咲の父親の関係を何か知っているかもしれないと頭に過ぎる。
知りたくてずっと頭の片隅に置いていた兄のことと手紙。
大樹は、駆け足で高崎が向かった駐車場へと向かうと彼は既に車に乗り込もうとしているところだった。大声で彼の名前を呼ぶと、ピタリと乗り込む姿勢で身体を止め、此方に気づいたようだった。
小走りで高崎の元へと向かうと「大樹様どうされましたか?」と一驚していた。
「高崎さん。今からこれは側近としてじゃなくて高崎さん本人として話して欲しいんだけど、宏明.......兄の昔のこと聞いてもいい?」
普段から必要最低限のこと以外はあまり喋らず、職務を全うしている高崎。家族個人のことなら傍から見ていて把握している筈なのに誰かが秘密を抱えていたとしても黙認してきていた。
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