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居住スペースを抜け、二階の町が一望できる広いウッドデッキへと連れていかれると、柵を背にして凭れた宏明は真っ先にポケットから煙草を取り出し銀色のジッポで火を付けては空へ向かって煙を仰いだ。
紫煙と吐く息が織り混ざる。
田舎と言えばマイナスなイメージから聞こえが悪いが、視界一面は緑が多くて背の高いビルひとつ無い風景は日頃忙しなく生きている都会人には気持ちを落ち着かせてくれる風景だった。
「何しにきた、お前俺にしたこと分かってんだろうな」
宏明は煙を吐いたままの視線を向けてくる。
「はい。でも、俺は年末のことを謝る気はありません」
大樹の一言で宏明の表情がみるみるうちに曇がかっていったことから、完全に癪に触る発言をしたと自覚はあるが、後悔はしていない。屈しないと決めたからにはここで引く訳にはいかなかった。煙草を咥えながらどこぞの輩かのように大樹に近づいては顔を覗き込んでくる。
「お前、入院してたんだってな。また同じ目にあいたいのか?」
煙草の先から燻る煙に噎せながらも、動揺を見せぬように目を細め冷静さを保っていた。
「兄さん、真面目に仕事してるんですね」
宏明のペースに乗せられ感情的にならぬように鋭い眼差しに臆することなく、宏明の問いかけを無視してじっと相手の瞳を見据える。
そんな怯えた様子もみせない弟に諦めたのか、宏明は「だからなんだ?」と折った腰を上げると、近くのテーブル椅子へと身を投げ出すように腰掛けた。
「寝る間も惜しんで調律の仕事の勉強してたって。その時、藤咲さんの看病をしてたんですよね」
机上にあった灰皿に灰が落ちては、宏明が大きく瞳孔を開かせる。すると、苛立ちを含ませた声音で「誰からきいた?」と問い詰めてきた。
前者は古林からなので「古林さんから.......」と答えると「弦一さんには光昭さんのことは話してない」と突っぱねられて、口を滑らせてしまったかと苦笑する。約束した以上、高崎からだと話すわけにいかない。だけど訝しんでくる宏明にどう答えるか考えていると、「高崎からか.......」と情報の発信源を直ぐに諭したようだった。
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