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その先の会話に口を噤んでしまったところで間を埋めるかのように舞台からぞろぞろと数名が楽器を持って出てきては演奏の準備をしていた。 下手(しもて)には少しふくよかで銀縁眼鏡の男がステックを両手に持ち、ドラムセット前に腰掛ける。 上手(かみて)にはアコースティックギターを抱えた少し野暮ったい男に、主旋律はサックスなのだろう。中年の男がセンターに立っては後ろの二人に目配せを送ると演奏が始まった。 肺活量が必要不可欠な楽器を扱う人と言われたらまさに見た目通りの肉付きのある体。小粋な音を出して客席の集中を集めていた。 この店の雰囲気と合わさって、より酔いしれた気分になる。曲が進むにつれて座席から鑑賞している人の中には微かに身体を揺らしたり、アコギの男が両手を叩いたタイミングで、客席から裏拍で手拍子をして盛り上がっているものもいた。 何より演者自身が楽しんでいるのが見受けられて、藤咲に言われた通り、自分は意識を上手く弾くことに集中しすぎて楽しむことを忘れていたのだと痛感する。 心からの感動というよりお情けでもらった拍手にすぎないような気がして半端者はそれなりのモノしか提供できないんだろうな·····。 「あんたさ、音楽嫌いなのか?」 音を楽しむ場所に来て、そんな質問を問うてきた藤咲に意表を突かされたが、それくらい 藤咲にしたら自分がつまらなそうだと感じたのだろう。 「さぁ、どうだろうな。昔から触れてきたけど、藤咲みたいに自ら好き好んでいるのとは違う気がする。どうしてだ?」 「だってあんた天体が好きなんだろ?未だにヴァイオリンしてるのが不思議だったから·····」 音楽が嫌いな訳では無い。しかし、母親の意向があるからか日頃の演奏に義務的なものを多少は感じていた。 現に藤咲に俺のヴァイオリンが聴きたいと言われるまでレッスンを再開する気は起きなかっただろう。怪我をいいことに適当な理由をつけて辞めてしまおうかとすら思っていた。

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