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教えてよ

演奏しているお店で藤咲の忘れ物を受け取り、帰宅してはテーブル上に置いた紙袋の存在感がどうしても気になった大樹は意を決して藤咲に連絡することにした。食べ物だし、先延ばしにしてはいけない気がしたので早急に藤咲に返した方がいい。 夜分遅くの電話は流石に非常識だと思い、メッセージでやり取りをすると、直ぐに返事が返ってきたので、翌日藤咲が昼休みの時間を見計らって食堂で落ち合う約束になった。 誰が藤咲にこれを贈ったのだろうかと余計な詮索をしたくなったが、藤咲とはそこまでの親密な間柄でもないし、聞けるわけがもなく、約束だけしてメッセージのやり取りは終わった。 午前の講義が終わり、仲間内で学食を囲う話になったが、大樹は先約があると断っては途中まで一緒に向かい、到着するなり藤咲の姿を探す。座席をキョロキョロしながら探していると、何脚か連なったテーブルの1番奥の窓際に頬杖をつきながら窓の外を眺めている彼の姿があった。 藤咲と目が合ったので、手を振って合図をすると向こうは軽く会釈をする。こんなに大勢の中に居ても見つけられるのは、藤咲の一角だけ独特な空気を放っているからだった。 彼のことを知ってるのか知らないのか、横を通る人間が二度見をしては、藤咲の姿を横目にしながら耳打ちをして通り過ぎていく。 そんな彼の事を気に留めながらも大樹は自分の昼食を券売機で購入し、食事を引き換えてから彼の元へと向かった。 「わざわざ悪かったな」 焼き魚定食の味噌汁をこぼさぬように慎重にお盆に乗せて運んでは、藤咲の向かい側の席に座る。何か彼に奢ってあげようかと問いかけたが、あっさりと断られてしまった。 大樹は押し付けがましく奢るのも違う気がして、深追いはせずに、一連のやり取りを終わらせると、腕を組んでそっぽを向いたままの彼の目の前に例の紙袋をテーブルにスライドさせては差し出す。 「はい、忘れ物。お前の大事な人からのもんなだろ?藤咲にもちゃんと居たんだな」 藤咲が紙袋に目線を移したタイミングで本題へと切り出したが、最後に余計な一言が口からついて出た。 藤咲にチョコを送った人への僅かな毟られるようなモヤモヤ心から、胸の中だけでは留めておくことができずに出てしまった。 こんな嫉妬心を燃やしたところで無意味だと分かっていても·····。 そんな自分の醜さからの後ろめたさで、藤咲とは敢えて目を合わせずに箸で魚の骨を解していると、向かいから鋭い視線を感じる。 同時に溜息が耳を掠め、その反応が気になってしまった大樹は顔を上げた。

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