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口元をへの字に曲げて、不機嫌極まりなさそうな表情をしている。
「別に大切な人なんか僕にはいないし。それ、いらない。あんたにあげる·····」
半ば投げやりに紙袋がスライドしてきては手元に戻ってきてしまった。
「はあ?そんなこと出来るわけないだろ。
くれた人に失礼だ。ちゃんと気持ち受け取ってやれ」
藤咲の行動の意図が全く読めずに紙袋をじっと眺めたが直ぐに突き返し、藤咲も負けじと「それは無理·····」と言っては袋を押し付けてくるので小さな攻防戦が始まる。
「無理じゃない、お前に気がなくても、こういうものはちゃんと受け取った上で返事をしてやるのが·····」
贈った相手に対して不躾なことをしてくる藤咲に何時もの調子で説教じみた強い口調で話すと「あーうるさい」と今まで聞いた事ことのないような藤咲の大声が響いて、大樹は思わず怯む。幸いにも周りから注目を浴びることは無かったが、藤咲の眉は寄せたまま。
「あんた僕に説教して何様のつもりだよ。それはっ·····あんたの·····ものなんだよっ·····」
眉を寄せて不機嫌なのかと思いきや、急に顔を俯ける。柔らかそうな髪の隙間から覗かせる耳朶が紅く色づいた。
「はい?」
俺のものだと言われてピンと来なかった大樹は藤咲に聞き返すと彼は更に押し付けるように紙袋をスライドさせてきては「だからっ·····!僕が·····あんたにあげるために買ってきたものだから·····黙って受け取れよ」と口を尖らせて訴えてくる。
「え、え?藤咲が俺に·····?」
藤咲が赤面しながらコクりと頷くのをみて、それと同時に身体の底から沸き立つような嬉しさで胸が弾む。お世辞にも藤咲が俺にこんな贈り物をしてくるなんて考えもしなかったので意表をつかれてしまった。
先程まで目に見えない誰かに嫉妬しながらも、罪悪感に苛まれて、それを誤魔化すように相手の気持ちを汲み取るフリをして無下に扱う藤咲に説教をしていたなんて、取り越し苦労もいいところだ。
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