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しかし、嬉しさには変えられない。
大樹は差し出された袋を両手で受け取り、
「ありがとう。嬉しいよ」と満面に笑みを浮かべて御礼を述べると、藤咲は「あんたにはお世話になったし·····」と絶え入るような声で呟いていた。
「空けていいか?」
昼食そっちのけで、受け取ったそばから空けていいか聞くなんてがっついていると思われるかもしれないが、この昂揚とした気持ちを抑えるのは不可能だった。そんな大樹の一方で藤咲は「勝手にすれば·····」と照れくさそうに伏し目がちに応えてくるのを待たずとして紙袋から青色のリボンのついた八角形の包装された箱を慎重に剥がす。
箱を被っていたものが剥がれ、中の箱が顕になった時、思わず口元が綻んでいた。
八角形の夜空を表したような青い箱の蓋には
展望ドームを彷彿とさせる透明プレート。
中身を開けると星座の絵柄がプリントされていて、何より真ん中のマーブル柄の地球のようなチョコレートには目を奪われた。
「凄いな。こんな綺麗なチョコレート初めてだよ。食べるのは勿体ないくらいだな」
菓子や食べ物類に疎い大樹にとって、世の中にはチョコレートなのにこんな芸術的なものが存在するのかと感心したと同時に藤咲が自分のために買ってきてくれたのだと思うと歓びで胸が燻る。
「あんたが食べて供養してくれないと僕のあんたに対する気持ちが報われないだろっ」
「ははは·····供養って·····そうだな、ちゃんと美味しく頂くよ、だけど急にどうしてだ?」
過ぎたとはいえ、この時期にチョコレートということは、バレンタインで間違いないだろうが、近年のバレンタインは好きな人や恋人に贈り物と共に想いを伝え渡すだけのイベントではない。自分の両親や友人、知人に感謝の意を込めて渡すこともあるので藤咲の意図が後者であることは想像できた。
念の為問いかけてみると、案の定藤咲は「パーティで助けてくれたお礼·····」と顔を顰めながらも何処か面映ゆそうに目を伏せる。
藤咲の気持ちが自分と同じ方向を向くことはないと分かっていても、彼が自分と寄り添う姿勢を見せてくれているのは、再開した頃に比べたら大きな進歩で、素直に嬉しい。
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