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「藤咲の誕生日はいつだ?」
星座の記号を眺めていて、ふと疑問に思ったことを訊いてみると「1月22日.......」とすんなり応えてくれた。
「じゃあ、水瓶座か」
大樹は水瓶座がプリントされた長方形のチョコレートの側面をつまむと藤咲に差し出す。藤咲は「何?」と言いたげに露骨に表情を歪めたので「お前にあげるよ」と一言添えたが、「あんたさっき人にあげるのは失礼だって、美味しく頂くって言ってただろっ」と言動と行動の矛盾を鋭く突いてきた。
「藤咲の気持ちはちゃんと受け取ったよ。
だからお前にお裾分け。でも·····手渡しは嫌だったよな·····」
純粋に藤咲とこの嬉しさを分かち合いたかっただけだったが、以前キャンプの時にお菓子を手渡しされるのを嫌がっていたのを思い出して元のあるべき箱に戻そうとした時、向かいから「いい、そのまま受け取る」と耳を疑うような予想外の返事が返ってきた。
大樹が差したチョコレートをじっと睨むと両手がテーブルに拳を握られ、置かれた。
そのまま上体が前に乗り出した途端、大樹の心拍数が上がる。藤咲が自分の手元に向かって近づいてきては、チョコレートに向かって口元を近づけている。
藤咲の唇がチョコレートに触れると指ひとつくらいの口を空けて咥え奪っていった。震えている長い睫毛、尖らせた唇がやけに艶っぽい。何だか野良猫に餌付けをしているような感覚を覚えて藤咲を連れ帰ってしまいたくなる。
「なんか水瓶座そのものだな」
あまりにも美しい姿の藤咲を目の当たりにしてふとそんな言葉が口からついて出た。
「は?」
意味を理解していないのか、チョコレートを口に含み不審がる藤咲に対して大樹は、恍惚としたまま話始める。
「水瓶座ってさ、お酒が流れる瓶をもつ美少年の姿って言われてるんだ。その美少年はガニメデスって言ってギリシャ神話では永遠の美しさと若さをもつ彼は大神のゼウスにいたく気に入られたんだ。そこでゼウスは大鷲に姿を変えて彼を攫っては酒のお酌する給仕として仕えさせたんだ·····」
「何が言いたいんだよ」
藤咲から鋭く問われて、ふと我に返ると自分が飛んでもない発言をしていたことに気がついた。
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