128 / 292
17-3
星杏の突然の問いかけに狼狽えた大樹は「意味というか·····何かの参考になるかと思ってさ·····」と彼女の躊躇いのない真っ直ぐな瞳に圧倒されながらも応える。
「·····先輩って勉強熱心ですけど、人の心って書物ではかれるほど単純なものじゃないですよね。まあ·····勿論参考にはなるかもしれないですけど」
確かに彼女の言う通り、藤咲が思っていることがこの本に書かれているわけもなく、彼にしか分からない。
「正直、私にはそういった恐怖を抱えている方の気持ちは分からないですけど、こちら側はどこまでが相手の許容範囲なのか、その先に進めるか後押しして克服できるように先導してあげるのが大事なんじゃないんですか?相手とよく向き合って信頼関係築いて支えてあげるものなんじゃないんですか?」
「分かってるんだ·····。だけど、俺自身が·····」
藤咲との信頼関係は恭子にも話した大樹自身がよく分かっていることだった。分かっているけど·····藤咲とこれ以上先へ進むのは漠然とした虞れがあった。
「好きなんですか?その子のこと」
直球に真意を突かれて、胸がドキリと鳴り
、急な脈の変化に視界が揺れそうになる。
サークルを離れてからあまり関わりのなかった彼女にここまで見破られるとは思わなかった。
「あ、え·····まあ、そうなんだ。でも、もしこの気持ちを知ったら多分、拒絶されると思うから、そんな不快な気持ちを与えてしまう俺が支えてやれる自信がないんだよ·····」
こめかみを人差し指で掻いては、彼女の視線に根負けしていると「先輩って意外とうじうじ悩むタイプなんですね」とこれまた槍で突いて来るような言葉を投げられる。
ともだちにシェアしよう!