130 / 292

17-5

逸る気持ちを抑えながらも、星杏の言葉で目が覚めた大樹は大学院が終わったその足で、横浜駅まで車を走らせていた。 時刻は22時過ぎ。遅い時間だと分かっていても行動に躊躇いがなかったのは藤咲の顔が無性に見たくなったからだ。 藤咲の行動範囲も自宅も知らないので、駅に着いてからメッセージで「会えないか?横浜駅で待ってる」と送っては暫く車内で待っていると「今から行く」と藤咲から返信が返ってきた。 最後に会って別れた時に気まずい空気になっていたので返事がくるのかさえ定かではなかったが、藤咲と今から会えると思うと高揚と緊張が織り交ざる。 駅の西口の道路に車寄せをして待っていると三十分程して、後方から藤咲らしき影が此方へと向かってきては、助手席の窓を叩いてきた。 それに気づいて後部座席のスライドドアを開けてやったが、暫く座席を見つめた末、藤咲は助手席側のドアに手をかけて乗り込んできた。 てっきり、俺との運転席と助手席の距離感でも彼にとっては苦痛なのではないかと思っていただけに思わず瞠目しては「大丈夫なのか?」と問うと「別に助手席に乗るくらいなら·····」と呟いてきたので彼の思想を優先して後部座席の扉を閉めた。 藤咲が助手席にいるだけで、皇室の人間でも乗せたかのように指先が震えるくらい緊張が増し、無意識にハンドルを強く握りしめる。気を張っているのは大樹だけではなく、藤咲自身も両手を組んで少しだけ顔を強ばらせていた。 「遅い時間、急にすまなかったな。今から、星でも見に付き合ってもらえないかなって思ったんだ。時間も遅いし、藤咲が嫌なら無理は言わない·····」 衝動的に藤咲を呼び出したが明確な目的はなかった。咄嗟にお得意の天体観測に誘ってみたが、藤咲は黙り込んでしまい、自分の好みに偏りすぎて判断を見誤ったかと後悔する。

ともだちにシェアしよう!